人工筋肉で、人間の可能性は無限大に広がっていく。

『WIM』亀井潤さん(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)

人工筋肉で、人間の可能性は無限大に広がっていく。

 

——亀井さんのこれまでの経歴を教えてください。

 

僕はもともと、東北大学で材料工学の研究をしていました。専門分野はバイオミメティクス。簡単にいうと、自然の中にいる生物や植物の特殊能力や機能を真似て、それを人工的に作り出すという研究分野です。在学中はキラキラ光る昆虫のメカニズムを真似して、キラキラ光るプラスチック素材を作ったり、食虫植物であるウツボカズラに着目して、絶対に汚れない素材というものを作ったりしていました。そんな風にずっとバイオミメティクスの研究をしていたのですが、自分の作ったものをもっと世の中に発信していきたいと思うようになり、ロンドンのロイヤルカレッジオブアートへ。デザインとエンジニアリング、両方を組み合わせたプロダクトを作るようになりました。日本に戻ってきたのは、数ヶ月前のこと。今は、東京大学とロイヤルカレッジオブアートが共同で運営する「RCA-IIS Tokyo Design Lab」で仕事をしていて、残りの時間を『WIM』のプロダクト開発にあてています。

 

——バイオミメティクスという分野の研究を始めたのは、なぜだったのでしょうか?

 

もともと化学が好きで、東北大学へ進学をしました。その中でもバイオミメティクスという分野を選んだのは、漫画の「テラフォーマーズ」のように生物の特殊能力を人間が手に入れることができたら面白いなと思ったからです。その頃に東北で震災を経験して、いろいろと今後のことを考えるようになったことも、理由の一つかもしれません。テクノロジーやもの作りも、もっと自然に歩み寄ったものを作るべきなのではないかと。それで、自然から着想を得た技術を作るバイオミメティクスという研究分野へ進むことを決めました。

 

——現在開発を進めている『WIM』とは、どんなプロダクトなのでしょうか?

 

『WIM』は、ロイヤルカレッジオブアートの仲間と一緒に開発を始めたプロダクトで、もともとはパフォーマー用に作ったウェアラブルテックです。僕は技術部門を担当していて、今はその中でも特に、収縮する材料に電気を流して、その素材が収縮することで動きを体に伝えたり、振動を通じて体を動かすことができたりという人工筋肉や振動素子の開発を進めているところです。自分で素材を一から作ることもあれば、既存の素材を使い、それをどんな風に人の体に組み込んでいったらいいのだろうかということを考えて、いろいろと模索をしているところです。単純に人工筋肉だけだと、あまりにも動きの種類が限定されてしまいます。なので僕は、その人工筋肉をどのように使えばもっと効果的になるのかという、二次活用の部分に力を入れています。

 

——人工筋肉の素材を一から作る取り組みについて、教えてください。

 

そもそも、今の人工筋肉の素材は値段が高いという現状があります。なので、それに変わる安価な人工筋肉の素材を作るという挑戦をしているところです。現存しているロボットは、ほとんどモーターで稼働しているものばかり。でも、人や生物など自然のものは、もちろんモーターで動いているわけではありませんよね。僕は将来的に、モーターではなく、人や生物と同じように収縮によって動きを作る人工筋肉を活用してロボットなどの機器を動かすことが普通になる時代がやってくると思っています。それならば、早いうちからチャレンジしてみたい。一般的に普及できる安価な素材を生み出していきたい。そんな思いで、新しい人工筋肉の素材開発を行っています。この技術が発展すれば、通常は硬い素材の自動車の表面が、ぶつかった時だけ収縮して衝撃を吸収してくれる。そんなことも実現できるのではないかと、思っています。

 

——亀井さんの他にも人工筋肉を研究している方は多いと伺っていますが、それらのプロダクトと『WIM』との違いは、どんなところにあるのでしょう?

 

そうですね。ずっと以前から研究をしている人たちは世界中にいて、人工筋肉は多くの研究者によって作られてきた歴史があります。『WIM』の場合も、正直にいうと技術的に真新しいものでは決してありません。でも、僕たちの場合はそれをどうプロダクトに落とし込んでいったら良いのかということや、人工筋肉を使う場面の新たな可能性を考えているところが、大きな特徴だと思います。以前、ロンドンで人工筋肉を搭載したスーツを着たダンサーの実演を行ったのですが、その時も、着て美しいと思えるものになったかどうか、どう組み込んだらかっこいいものになるのかというように、別の素材と組み合わせることでデザイン的な要素に力を入れて開発を行いました。

 

——パフォーマンス向けの人工筋肉をメインに開発されてきたとのことですが、今後は他の分野にも展開されていくのでしょうか?

 

今後は、人工筋肉をもっと日常的に役に立つプロダクトにしていこうと考えています。どちらかというと、手の動きにフォーカスしたプロダクトとなる予定で、手の力のアシストであったり、手の動きの再現をできるようにしたりということをしていきたいですね。利用シーンとしては、手の力の弱い人に使ってもらったり、何かの手の動きを取得する時に活用してもらったりと考えています。既に医療分野やスポーツ分野にはニーズがあると思っているし、逆に全く新しい分野にも挑戦してみたいと思っています。

 

——『WIM』というプロダクトを通じて考える、亀井さんのビジョンを教えてください。

 

既存の素材を使って新しいプロダクトを作る取り組みはもうすぐ、数カ月以内に実現しようとしています。その次に実現できると考えているのが、安価な人工筋肉の素材作りです。将来的には、その安価な素材を使ってこれまでにない新しいプロダクトを開発し、これまで普及していなかった分野にも人工筋肉を広めていきたいと思っています。最初は医療の分野が入り口になると思っているのですが、個人的には水泳が好きなので、ウェットスーツに人工筋肉を取り込んで、長い時間疲れずに泳ぐことができるといったものも作っていきたいですね。そんな風に身に付けるものに人工筋肉という技術を搭載していけば、人間の可能性はもっともっと広がっていくのではないかと思っています。

 

——PAAKについてお聞きします。亀井さんの気に入っているところがありましたら、教えてください。

 

個人的に住まいも職場も近いところにあるので、アクセスしやすいところが気に入っているポイントの一つです。行き来しやすいので、職場では仕事を、PAAKでは自分のプロジェクトをという感じで、日によって気分を切り替えながら利用していました。後は何が良いかというと、作業を終えて休憩している時に他のメンバーと雑談ができること。僕はあまり積極的に人と話をする方ではないのですが、自然と会話が生まれるので、その時に人を紹介してもらったりもできるところも、気に入っているポイントの一つです。みなさん、常にアンテナを張っている人ばかりなので、そこで得られた情報は多かったですね。所長の麻生さんを始め、たくさんの人に出会うことができ、本当に感謝しています。

 

——麻生に対するメッセージがありましたら、この場でぜひどうぞ。

 

先日の会には参加することができなかったのですが、所長の麻生さんには本当に感謝しています。麻生さんは、技術がどうのこうので面白いと感じる人というよりは、プロダクトがどう社会と関わりを持っていくのか、どう社会に貢献していくのかという部分に面白みを感じる人なんじゃないかなと思っています。なので、ぜひ次のバージョンができあがったら、麻生さんにお見せしたいですね。

 

——最後に、亀井さんのプロダクトに興味を持っている方へメッセージをお願いします。

 

僕のプロジェクトは、まだまだ始まったばかりなので、エンジニアリングの部分やデザインの部分でチームに参加してくれる人がいたら嬉しいですね。それから、人工筋肉と組み合わせる要素の一つとして、3Dプリントを考えています。その辺りの知見がある方もいたら、ぜひ声をかけていただきたいと思います。また、これまでは投資を念頭にした技術やビジョンの情報公開に関してはあまりオープンにはしてこなかったのですが、これからは積極的に行っていく予定です。

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