従来の4000分の1のコストで精製できるダチョウ抗体で、世界中の人を救いたい。

『ダチョウ抗体によるフードサイエンス』井上 雄介さん(VitaLonga株式会社)

 

——井上さんのこれまでの経歴を教えてください。

大学、大学院では機械学習を始めとした、人工知能の研究室に所属していました。その後に休学し、AI系のコンサルタントやエンジニアをやったり、ブロックチェーンや仮想通貨を独学で勉強して、その方面のコンサルティングをやったり、研究者の支援をやったりしていました。今まで培ってきた情報処理のスキルで“社会に共感されるどのような事業をするべきか”を考え続け、様々な科学技術を探しに日本を動き回っていました。その際に、ダチョウ抗体の研究をしている京都府立大学の塚本康浩教授とお会いして衝撃を受けたのです。塚本康浩教授と出会いをきっかけに、ダチョウ抗体の素晴らしさを広めていく支援をできたらと思い、VitaLonga株式会社を立ち上げました。

 

——VitaLongaが開発・製造・販売を行うダチョウ抗体によるフードサイエンスとは、どのようなプロジェクトなのでしょうか?

VitaLongaでは殺した病気の菌をダチョウに注射し、1か月後に産み落とした卵から精製した抗体を、食品の中に入れます。そうして食品として人の体の中に取り入れることで、病気の菌を排除できないかという研究と商品開発を行っています。

抗体はもともと人間の体でも免疫システムによって作られる物質ですが、動物の体内で生成することも可能で、これまでにもうさぎやにわとり、アルパカなどさまざまな動物によって作られてきました。インフルエンザウィルスや花粉症によるアレルゲンなどに対抗するように精製した抗体は、それぞれの物質を退治する役割を持っています。

現段階ではいくら食べても太らないチョコレートや、腸内フローラを整えるエナジードリンクなど、日々何気なく摂取している食品に抗体を入れていくことで健康に寄与していく取り組みを行っていく予定です。今後、スーパーやコンビニなどでこのダチョウ抗体入りの食品を販売していくことで、誰もが手軽に病気を予防したり、症状を抑えることができたりするようになればと考えています。まだ許されている使用範囲は食用や塗布で、十分な治験をこなさなくては血中に投与することはできませんが、このダチョウ抗体が現状のさまざまな問題を解決できるかもしれない可能性を秘めています。

 

——従来のウサギやニワトリといった動物で生成された抗体と比べて、ダチョウ抗体のメリットはどんなところにありますか?

圧倒的なコストの低さと安全性の二つです。

例えばウサギの場合、血を採って抗体を精製するので、その度にウサギの命が犠牲になっていました。体のサイズも小さいため、ウサギ1匹からはほんのわずかな量しか抗体を精製することができません。そのために1グラムあたり1~4億円という莫大なコストがかかっていたのです。しかし、ダチョウ抗体の場合は命が犠牲になることもないですし、1グラムあたり数十万円という安価で、つまり4000分の1程度の価格で精製することができます。この圧倒的なコストの低さがダチョウ抗体のメリットであり、大きな特徴です。

また、安全性が高いことも特徴の一つです。通常、ほ乳類の場合は血液から抗体を精製しますが、ダチョウ抗体は卵の黄身から精製しています。卵の黄身は古来から人類が食べてきたものであり、食べる限りにおいては安全性が高いと言われていて、一般的にアレルギー反応が起きるのは、黄身ではなく白身です。なので、卵黄抽出物を使うダチョウ抗体の場合には、アレルギー反応を起こす可能性はほぼありません。

 

——井上さんがダチョウ抗体によるフードサイエンスの研究・開発をスタートするまでの経緯を教えてください。

ダチョウ抗体の研究を行っている塚本教授と協力することで、このプロジェクトはスタートしました。塚本教授から抗体が入った飴をもらって、最初は半信半疑だったんですが、実際に試して僕自身がインフルエンザや花粉症において劇的な効果を感じることができたので、これは本物だと確信しました。

このダチョウ抗体の効果が社会的にも本物だと証明することができれば、どれだけ多くの人を病気の症状による悩みから救うことができるんだろうと、すごくワクワクしたのを覚えています。それなのにダチョウ抗体の素晴らしさは、まだ世の中に広まっていない。そこで、ダチョウ抗体の素晴らしさを広めるお手伝いをしていきたいと思ったんです。

 

——そもそもITの領域に携わっていた井上さんが、ダチョウ抗体という分野に興味を持ったのは、なぜですか?また、そこにはどんな思いがあったのでしょう?

僕はもともとIT側の人間で、AIやブロックチェーンなどの分野の研究やコンサルティングを専門にやってきました。しかし、ITだけでは意味がない。ITに何かを組み合わせないと、新しいもの、真に社会に貢献できるものは生まれない時代になっている。そう思うようになり、調べていく中で最終的にたどり着いたのが、ダチョウ抗体でした。

これからの時代は、あらゆる分野をまたいだ知識や技術を組み合わせることで、ようやく新しい価値を生み出せる時代になるはずです。この考えは、カニエ・ウェストを代表する音楽の世界で言われる“サンプリング”という考えが、もとになっています。カニエ・ウェストは、これまで世の中に誕生してきた全ての音楽を聴いて、その中で良いと思った曲の一部をサンプリングして新しい音楽を作ることで知られています。彼は原曲者から訴えられたこともありますが、「カニエにサンプリングされるということは、自分の音楽は洗練されている証だ」と言われることも多いアーティストなのです。

僕たちも、医療の分野だけを視野に入れるのではなくて、例えば音楽や絵画、映画や哲学、教養などさまざまな要素をサンプリングし、良いものだけを組みあわせて新しいものを生み出していきたい。僕が尊敬して止まないスティーブジョブスやダヴィンチも、テクノロジーに芸術など他分野のさまざまな知識を融合させてきたからこそ、素晴らしいことを成し遂げたはずです。ダチョウ抗体を、他の多くの医療品のように効果効能など機能的な側面だけを追求するのではなく、パッケージのデザイン性であったり、おいしさであったりとトータルで考えた商品開発をしていきたいですね。

——VitaLongaという社名はあまり聞きなれないですが、この言葉にも何か意味が込められているのでしょうか?

古代ギリシャの時代に生きていた、医学の祖であるヒポクラテスという人物がいます。彼は医療行為をまじないから医学に変えた人物と言われていますが、彼の残した言葉に“ars longa, vita brevis”というものがあります。日本語に訳すと“学芸は長く、人生は短し”。つまり、芸術や学術を修めるには長い時間を必要とするけれど、人生はあまりにも短い、という意味です。しかし、僕たちVitaLongaは人の寿命も長くしたいと考えています。そこで、“学芸は長く、人生も長く”という意味の“ars longa, vita longa”という言葉に言い換えて、社名をVitaLongaとしました。人の健康寿命をできるだけ長く伸ばす。そのための一歩が、ダチョウ抗体だと確信しています。

 

——最後に、VitaLongaのビジョンを教えてください。

ダチョウは、数年以内に人類の最高のパートナーになるはずです。将来的には世界中にダチョウ牧場があって、そこで日常的な感染症や健康維持に対する抗体を作っていて、世界中の誰もが手軽に抗体を手にし、病気を予防したり、治したりすることができるようになるでしょう。そんな世界を目指していきたいと思っています。

その未来のためにまずは、ダチョウ抗体の製品開発をしていく中で食品や化粧品として試してもらい、魅力を発信するとともに、医療の分野でも通用するようなきちんとした治験データを取っていくことが、僕たちの今の目標です。

 

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