“職業は私です”が、当たり前になる社会を目指して。

『TEAMKIT』小谷 草志さん(右)、安藤晶さん(株式会社エルボーズ)(左)

——フリーランスとしての経験をお持ちだというお二人の、これまでの経歴を教えてください。

安藤さん:15歳の時に都内の高専に進学して、知り合いのクリエイターさんにグラフィックデザインやエディトリアルデザインの仕事をもらいながら、在学中からフリーランスのデザイナーとして活動していました。高専を卒業後は新卒で、歴史ある大手の印刷会社に入り、そこで広告や雑誌を作っていましたが、この会社にいても私は何も成長できないと思ったので、辞めてしまって。その後に入社したのは、知り合いが経営するアダプティブというマーケティングリサーチの会社です。どちらの会社にいる時も、高専時代と変わらずフリーランスとしてもデザイン業を請け負い、二足のわらじの生活を続けていました。もともとは紙がメインでしたが、WEBのデザインも行うようになって、今現在エルボーズでは事業に携わる全てのデザイン業務を担当しています。

小谷さん:僕は兵庫県出身で、大学は鳥取の大学へ進学しました。その後は大学院へ進学したのですが途中で退学し、東京へ来て『Schoo』という動画教育サービスを提供するスタートアップの立ち上げ期にインターン生として携わりました。そこでは、動画授業のディレクションやイベント企画など幅広く経験させてもらって。その後に新卒1社目で入社したのは、マーケティングリサーチを行うクロス・マーケティングという会社で、マーケティングリサーチの仕事をしていました。1、2年ほどいたのですが、僕の兄が『ASOBIBA』というサバイバルゲームフィールドを運営する会社を立ち上げることになり、お台場店の立ち上げから参画して、初期店長も経験しました。フリーランスになったのは、その後のことです。『ASOBIBA』を抜けてからは、東京と鳥取二つの拠点を行ったり来たりしながら3年ほど活動を続けて、エルボーズを立ち上げました。

 

——お二人が出会ったのは、いつ頃のことですか?

小谷さん:僕がフリーランスになってからのことなので、3年くらい前です。当時、彼女が勤めていたアダプティブという会社から、業務委託契約で仕事をもらうことになって、そこで知り合いました。

安藤さん:アダプティブに入社した同じ日に彼も業務委託契約で入ってきて、年齢が近かったこともあって、仲良くしてみようかなと思って。

それからもう一人、創業メンバーにはエンジニアの岡田がいます。彼ももともとフリーランスとしての経験を持ちながら、地元の新潟でネット系の仕事をしていて、あるきっかけで東京に来ました。その後は、エンジニアとしてクラウドファンディングサービスの『FAAVO』を運営するサーチフィールドやCAMPFIREなど、いろいろなベンチャー企業を渡り歩いてきたみたいです。その彼と代表の小谷が出会ったのは、彼がサーチフィールドに勤めていた時。その後、エルボーズの立ち上げ時に創業メンバーとしてジョインしてくれました。

 

——『TEAMKIT』とは、どんなサービスなのでしょうか?

小谷さん:『TEAMKIT』は、「フリーランス向けの仮想的なコワーキングスペース」をコンセプトにしているサービスです。プロジェクト単位で働く、という働き方を促進していこうというサービスになっていて、具体的には、全国で働くフリーランスを始めとした少人数で頑張っているスタートアップなどが、お互いに仕事をシェアできるプラットフォームになっています。また、プロジェクト単位で動く時にチームのメンバーを探すことも可能です。

これまで多くのフリーランスの人に会って調査したところ、70%以上の人がこれまでのつながりで仕事を紹介してもらっていたり、一度仕事をしたことのあるクライアントに仕事を紹介してもらったり、Facebookなどで知り合いを通じて人材や仕事を探したり、そんな風に苦労しながら仕事をしていることがわかりました。要するにフリーランスの人は、信頼やつながりといったものが何よりも大事だということがわかったんです。それならば、その人がどんなスキルを持っているのか、どんな人脈やつながりを持っているのかが一目でわかるようになれば、プロジェクトに簡単に人をアサインすることができるようになるし、フリーランスの人自身も簡単に仕事を見つけることができるはず。なので『TEAMKIT』のプロフィール欄には、働き方の希望、これまで自分が何をやってきたのか、自分のスキル、誰とつながっているのかなどを表記でき、それが可視化されるようにしていきたいです。

先日β版のサイトをオープンしたところで、今は審査制で登録者を募っている段階です。現在登録してくださっている人の中にはエンジニアやライター、デザイナーやカメラマンといった職種の人はもちろん、少し変わったところで言うとアーティストの人まで、さまざまなフリーランスの人が登録してくれています。

 

——審査制で登録者を募っているとのことですが、どのような審査を行っているのですか?

小谷さん:今現在は、Facebookアカウントをもとに登録してもらっています。審査をクリアしているのは、専業でフリーランスとして働いている人、もしくは小規模の事業者やスタートアップといった人たちに限定しています。企業に勤めているサラリーマンで、副業でフリーランスの仕事もしているという人を今は審査で落としていますが、いずれは企業や組織に関係なく、誰もが個人としてプロジェクトに参加できるサービスに育て上げることが僕らの理想です。副業の人にだからこそ頼めること、主婦にだから頼めることもあるはずなので。ただ、今は副業の人や主婦の人のスキルやステータスを明確に示すことができないのが、現状です。それが実現した時には、今のような審査制ではなくもっとオープンなかたちで登録者を増やしていけたらと思っています。

 

——そもそも、『TEAMKIT』を開発するきっかけは何だったのでしょうか?

安藤さん:自由に生きていきたいと思ったからですね(笑)。印刷会社に勤めていた時に、大企業ならではの古い制度や態勢に嫌気がさして、それが理由でベンチャー企業に転職したという経緯もあるくらいなので。「どうして就業時間は8時間なんだろう」、「どうして週休二日制なんだろう」、「どうして平日に働かないといけないんだろう」というような疑問が次々と湧いてきました。そのうちに、自分の好きなことが仕事になって、自分の好きなようにカスタマイズしながら生きていきたいと思うようになったんです。

そんな時に小谷から鳥取に、夏はシーカヤックのインストラクターをして、冬はプログラマーとして働く人がいるという話を聞いて。そんな風にプロジェクトごとに仕事をして人生をカスタマイズしていくことは、自己実現の最たるものなのではという答えに辿り着きました。でも、プロジェクト単位で働くには多くの課題があります。そもそも、日本はフリーランスが活躍できていません。それならまずは、フリーランスの人が仕事をしやすくするためのプラットフォームを作ろうと考え、『TEAMKIT』を開発することになりました。

 

小谷さん:僕らは、個人に寄り添いたいという気持ちを強く持っています。僕は今でも東京と鳥取を行き来しているのですが、鳥取には「地域を盛り上げるために、こんなプロジェクトをやりたい」という熱い話をしてくださる人がいて。でも、いざWEBでプロモーションをしようとなった時やWEBサイトを作ろうとなった時に、実際に制作できる人が一気に限定されてしまい、なかなかクリエイターに出会うことができない。それでプロジェクト自体が動かなくなってしまうということが、よくあります。でも、これはすごくもったいないことですよね。だから、プロジェクトがもっとスムーズに進行していくためにも個人と個人がつながるプラットフォームは、あるべきだと思いました。

 

——実際に『TEAMKIT』に登録すると、フリーランスの人にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

小谷さん:例えば、フリーランスとして働くデザイナーがクライアントからWEBサイトの制作を頼まれたとします。でも、自分はデザイナーだからプログラミングができない。そうなった時に、一緒にその仕事を進められるプログラマーを探すことができます。後は、面白いサービスや企画を思いついたから作りたい、と思ったとします。アイデアはあるけど、自分だけでは作ることができない。そうなった時にも、『TEAMKIT』なら一緒に作ってくれる仲間を探すことができる。僕たちは、そのためのプラットフォームを目指しています。

 

——今現在、『TEAMKIT』にとって課題や問題としていることは何かありますか?

安藤さん:いろいろな人に言われているのが、個人のスキルの数値化についてです。個人のスキルを登録者全員が同じ見せ方や基準でないといけないと思うのですが、それをどう統一していくかが課題になっています。

小谷さん:今現在は、こんなデザインができる、こんなライティングができるというように、全て登録者自身の判断に任せています。それをいかに客観的な視点で、数値化することができるか。また、その人の人となりやバックボーンといったステータスをどのようにWEB上に反映させるか、ということも課題の一つ。多分、「鳥取の仕事だから、鳥取に携わる人に仕事をお願いしたい」というようなことも出てくると思うのです。そういった時に、そのようなステータスは重要になってくると思います。

安藤さん:多分、こういった問題は、これまでも大手のアウトソーシング系の会社がチャレンジしてきて、実現できず挫折してきた社会的な問題だと思います。そこに、どうやって切り込んでいくか。壮大な挑戦ですね。

小谷さん:これらの問題は社会的な問題ですが、『TEAMKIT』ならではの課題としては、プロジェクトをどんどん発足できるようになった時に、それをまとめるプロデューサーやディレクターというような立場の人がどれだけフリーランスとして働いているかが問題になってくるんじゃないかと。また、そういう人たちをいかに育てていけるかどうか、というところも問題になってくると思っています。

——『TEAMKIT』の今後のビジョンを教えてください。

小谷さん:誰にでも、理想のライフスタイルがあると思います。でも、組織の枠組みといったもので実現できなくなっていることも多いと思うんです。そういう意味では、「職業は、私です」というようなことを普通に言うことができる、そんな世界を『TEAMKIT』を通じて実現したい。

今は「個の時代」と言われているけれど、実際には個を出しにくい世の中だし、個では仕事がまだまだしづらい時代です。誰もが個というものを出して、自由に働いていく。『TEAMKIT』は、そのための第一歩となるインフラになりたいですね。それと同時に、「私はどんな人生を歩んでいきたいのかな」、「本当にやりたいことは何だったのかな」ということを、改めて考えられる場にもなっていけたらと思っています。

 

——PAAKについてお聞きします。会員になってから半年、いかがでしたか?

小谷さん:良かったところの一つ目は、単純に場所として利用できたことですね。後は、同じくらいのフェーズの会員さんが多くいて、サービスをローンチするとお互いにシェアし合うというような雰囲気が自然とあって、それが良かった。コミュニティーとして、とてもありがたかったです。

安藤さん:PAAKにいると刺激をもらえることも、良かったことの一つです。半年前のキックオフの時にはアイデアくらいしかなかったのに、半年後の成果発表会ではもうサービスをローンチしている人もいて。そういう人たちを見て、私たちも気合いを入れなきゃなと思えました。副賞で『Slush Tokyo』の出展権利もいただいたのですが、そこで初めて他の期の会員さんとも知り合いになって、「一緒に何かできたら良いね」という話もできて。刺激をもらいながらも、まるで同志のような、心強い感じもありました。

小谷さん:人を紹介していただけたことも、本当にありがたかったです。所長の岩本さんが、「こういう人とつながった方がいいよ」といろいろな人を紹介してくれて。その紹介する人の選び方も、当てずっぽうじゃない。僕たちの状況をきちんと把握した上で、人を紹介してくれて。岩本さんは、『TEAMKIT』に欲しいくらいです(笑)。本当に、ありがたかったですね。

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