だれでも使えるホテル料金の価格戦略人工知能サービス『MagicPrice』 ── 松村大貴さんインタビュー

■プロフィール
株式会社空
代表取締役 松村大貴さん

宇宙への夢から始まったビジネス

まずは松村大貴さんのプロフィールを教えてください。

僕は子供の頃から『天空の城ラピュタ』が好きで、ラピュタに憧れていつか空を飛びたい、空に関する仕事をしてみたいと思っていました。またJAXAがやっていた日本宇宙少年団という宇宙について体験・勉強をする会にも参加して、小さい頃は宇宙に行きたいという思いがありました。それが大人になるにつれて、だんだん宇宙にまつわるビジネスをしたいという思いに変わりました。それが弊社の名前、『株式会社空(そら)』につながっています。

ビジネス面の経歴でいうと、大学はマーケティングが専攻でした。卒業論文は「ビートルズのマーケティング」をテーマに、なぜあれだけヒット曲が生まれたのか、そのPR方法などを調べて書きました。卒業後はヤフー株式会社に入社し、Yahoo! JAPANでアドテクの仕事につきました。そこで国内市場、アメリカ市場の調査をして、社内に向けてそれを共有したり、提携させたりといった仕事をしていました。

マーケティングからITへと進むための知識はどこで学ばれたのでしょうか?

大学3、4年生の頃に自分でWEBサービスを作ることもしていました。元々WEBのデザインやページ制作は高校時代からやっていて、その時のつながりからWEBに関する制作物の依頼が来るようになり、また自分でももっとインタラクティブなWEBサービスが作りたくて、そこからPHPやJavaScriptといったプログラミングを勉強して、ひと通り、簡単なモノなら自分で作れるようになりました。大学4年生のときには、実際に友人とWEBサービスを立ち上げて、起業もしてみたいなという考えも一時期ありました。

そんなことから、人材としてはマーケティングをやっているビジネスサイドの立場だけど、技術もわかる奴ということで、開発チームの中でのマーケティング担当という立ち位置が定着していきました。

なぜ大学で、エンジニアリングではなくマーケティングを専攻されたのでしょうか?

僕はエンジニアになりたかったわけではなく、ビジネスに興味がありました。あくまでもエンジニアリングは手段だと思っていて、それを使ってどうやって社会を変えたり、どんな新サービスを提供すればみんなが喜ぶか? といったことに関心があり、それを考えられる人になりたいと思っていました。みんなにサービスを使ってもらうにはマーケティングは大事だし、単純に僕自身が憧れていたり、クールだなと思っていた人が、マーケターや、広告、デザインをやっている人達だったというのも影響していると思います。あくまでもテクノロジーは、そのための手段として必要だったので勉強をしました。

アドテクのノウハウを生かしたサービス設計

そんな中で、何が起業のきっかけになったのでしょう?

ヤフーをやめて、株式会社空を立ち上げたきっかけは、実は今やっている『MagicPrice』というプロダクトではなく、飛行機に関することで事業を起したいと思っていたので、まったく別のプロダクトがきっかけでした。

起業当初は、クラウドファンディング等を利用して、国内で小型飛行機を使って訓練の体験ができるビジネスや、遊覧飛行に近い、自分で飛行機を操縦して飛べるようなトレーニングができるサービスなど、いろいろトライアンドエラーで始めてみました。もちろんスタートアップ企業が最初からうまくいかないのは理解していたのですが、最初の半年は、本当に様々なことを試し、事業の失敗を繰り返しました。

それは、もう空という会社でのお話ですか?

はい、空を立ち上げた2015年の5月から、『MagicPrice』というプロダクトを思いつく11月までの半年間ですね。

そこから『MagicPrice』につながるきっかけを教えていただけますか?

その半年で、飛行機などいわゆるハードウェアをベースにしたサービスで資金を調達するのは非常に難しいということがわかりました。特に実績のある会社でもなく、それについて研究し続けてきた会社でもないスタートアップ企業が、飛行機を作ります、飛行機を飛ばしますと言っても、なかなか資金を調達するのが難しかったんですね。やはり最初はソフトウェアで、自分たちの得意としているITをバックグラウンドにした事業を立ち上げないと、その先にもつながらないなという結論に至って、そこからは自分たちの強みを活かして、まずはソフトウェアで事業の基盤を作ろうと決意しました。

それでも、せめて航空に関わるところで何か事業を起そうという部分は曲げずに考え、まずは航空業界の仕組みを全部調べました。このときアドテクのノウハウが役に立ちました。
アドテクの世界は、いろんなプレイヤーがいろんなカテゴリーで何百社と存在していて複雑なんで、大きなグループに分けるとそれぞれの動きがわかってくるんですが、航空の世界もそれと同じように複雑な状況でした。

例えば僕らは飛行機に航空チケットを買って乗りますが、チケットを購入する際、僕らが目にしていること以外にも実は裏に間接的なプレイヤーがたくさんいます。それらを全て調べて洗い出して、グルーピングをして、それぞれの動きを把握した上で、そこに僕らが得意としているテクノロジーを掛け合わせて何かできないかな? ということを総当たりでアイデア出しをしました。

そのときに、広告の世界でやっていたリアルタイムビッディングだったり、広告の値段をリアルタイムで決めていくプライシング技術を応用して航空券の料金設定に活かせないか? という着想に行き当たりました。

そこからアイデアをさらに広げて、航空券を取引する際に新しいテクノロジーを導入して取引をしたら、もっと売り手にも買い手にもうれしいビジネスができるのではないか? という仮説を立てて、それを確かめるために、航空会社、旅行代理店、ホテルと、それぞれの立場の方にヒアリングをしていきました。

数十人にインタビューをさせていただいたところ、どうやら航空会社よりもホテルにこの技術を応用させたほうが実現が早そうだというのが見えてきました。
しかも航空チケットの売買に応用しようと思っていた技術がホテルの宿泊予約のシステムにも使えることがわかった上に、航空会社に比べてホテルのほうが数が多いということや、導入している予約システムも同じものが多かったり、何よりもホテル各社の意思決定のスピードが航空会社よりも早いということから、スタートアップでビジネスをするにはホテルのほうがマッチしているということが見えてきました。そこでまずはターゲットをホテルに絞り、プライシングの技術で新しいサービスを作っていこうという決断をしました。

リーン・スタートアップのような手法でヒアリングを行ったということですか?

はい。まさにリーン・スタートアップ、『Running Lean』という本で学んだことを、教科書通りに実行して、モノを作る前に顧客を作ることを実践し、そのヒアリングの結果から答えを導き出しました。そこで顧客が何に困っているかがわかってきて、課題が見つかり、最終的にそのことを自分の言葉で喋れるようになりました。その段階で、ようやく何が必要で、どういう機能、ベネフィットが求められているかが見えてきたので「よし、これで行けそうだね」という実感がわき、やるべきことがどんどん固まっていきました。

MagicPrice_01

ホテルの最適な価格を提示する価格戦略人工知能サービス『MagicPrice』

具体的に『MagicPrice』はどんなプロダクトですか?

『MagicPrice』は、ホテルや航空会社の売り手側が、高すぎず、また安すぎない、その時点で最適な価格を顧客に提示することができる価格戦略人工知能サービスです。

ここで多少、航空に関することから外れましたが、ホテルと航空会社は関連性のある事業だと思いますし、サービスを成長させた後に航空チケット販売へのシステム展開もすぐに可能なので、まずはホテル向けのサービスをしっかりと作り込み、そこから横の展開で航空会社を始め、他のサービスにも広げていければ良いなと思っています。最終的に、子供の頃の夢でもある宇宙関連の事業にまでサービスを広げていきたいです、今はしっかりと事業を固めていくことが大事だと思っています。

現実と夢をつなげる方法が見つかったという感じですね。

そうですね。最初は多少、悩みました。やりたかったことって本当はなんだっけ? という気持ちにもなりましたが、今は本当にやるべきことが見えて、モチベーションも高まり、夢に向かって、まっすぐ進んでいる気持ちになれました。

もっとも会社のビジョンとしては、宇宙事業やります、航空事業をどうにかしますみたいなことがやりたいわけじゃなくて、僕らは「Happy Growth」という、どれだけ幸せに自分たちが新しい働き方ができるか、より多くの人がそういう生き方ができるようになるかを、サービス作りをしながら「ほら、できるんだよ」と証明していこうと思っています。『MagicPrice』はその手段として考えていて、それが僕らのやりたかったことだよねと、実感しています。

アイデアを実現するにあたり苦労した点はありますか?

実は『MagicPrice』のアイデアが決まる前のヒアリングを行っていた時期が2015年の9月、10月頃で、ちょうどTECH LAB PAAKに入った時期でした。その頃、我々がやっていたのが、資金調達でした。ですので、技術的なことでの苦労よりも、アイデアのブラッシュアップをしながら、VC等いろいろなところに出向いてプロダクトの売り込みも行っていたことが、苦しかったですね。
ただVCの方々を巡っていくことで、我々の甘いところをどんどん指摘いただき、その都度アイデアがブラッシュアップされていくので、それは良い勉強になりました。

では当初TECH LAB PAAKに『MagicPrice』で参加応募されたわけではなかったのですね。

はい、我々は「飛行機を作る会社です」と言って応募しました。最初にお話をした事業がまだ1つ生きていたころですね。ただ、最初の面談で「IT技術、ソフトウェアを使った航空旅行関連ビジネスをこの半年の間に立ち上げます。そのためにこの時間を使います」と宣言していました。本当にその通りに時間を使うことになりました(笑)。
このときは、まだ他にも案がいくつもあった状態で、何も絞り切れていませんでしたね。

引き続き資金調達に向けて動きながらアイデアを固めていくんですが、実際に資金が調達できるまでは時間がかかるので、その間も、アイデアが、どんどんブラッシュアップされて、結果的にはVCに提案できるぐらい、見せられるモノができあがっていました。ですので、TECH LAB PAAKに参加できたタイミングが本当に良かったと思っています。

実際にヒアリングはどういうところに、どんなふうに行ったのですか?

元々、僕はヤフーだったので旅行関連のサービスをされている方につながりがあったのと、TECH LAB PAAKからご紹介いただくこともできて、比較的やりやすい環境にいましたね。また、『LinkedIn』を使って直接コンタクトを取って、お時間をいただいてヒアリングをさせてもらうこともありました。

そんな中で見えてきたのが、航空、ホテルの市場に関しては、オンプレ(オンプレミス)の時代からずっと使われているシステムだったり、同じような会社だけがずっと提供しているといった技術的に硬直している市場だったので、新しい技術をみんな欲している状態でした。ですので、みなさんが時間を取ってくれて、我々はこういうことを考えているんですと話すと、面白がってくれて、自分たちのアイデアの良いところ、まだ甘いところ、現実のワークフローにどう合わせれば良いのかを事細かに教えていただけて、こんなにみなさん力を貸してくださるんだ! と。ヒアリングから得たものは、本当に大きかったです。

ヒアリングをすることでどんどんアイデアが固まっていったわけですね。

アイデアが固まって作るべきモノが決まって、それができていく過程や、できたあとも、ヒアリングは大切にしています。使ってくださるユーザーの意見が一番大事なので、どうやって普段のワークフローにそれを落とし込むことができるかに関しても現場の意見がより参考になります。自分たちに見えている部分で、こういう風に作りたいという内容ももちろんあるんですが、最終的に何が必要なのかを決めるのはユーザーですから。自分たちの思い込みは捨てて、お客様が欲しているモノを作るというのがベースにあります。ただすべての意見を聞き入れるのは難しいので、いろんな人にお話を聞いて、何が一番求められていて、何が既存のソリューションでできないところなのか? にフォーカスを当てて決めています。それはモノができてサービスを提供開始してからも続けています。

人間がより人間らしい仕事をすることが一番の価値

肝心のプライシングについては、簡単に実現できる技術なのですか?

ホテルのみなさんがやっていることは航空会社と近いということがわかりました。プライシングとか、業界用語でいうとレベニューマネージメントと言うんですが、料金や在庫をコントロールする手法は、20、30年ぐらい前からアメリカの航空会社で理論が確立されている方法なんです。ですので、プライシングについては昔からされてきている業界なんです。基本的にはそれに則って、それでも教科書があるわけではないので、それぞれ独自のルールがあったりはするんですが、課題を大きく分けると3つあって、1つは精度の話。これについては長年の経験から、各ホテルに「秘伝のたれ」のようなノウハウがあり、昔から継ぎ足されてきたエクセルのシートを活用しているようなところがあります。その精度が高いかというと、定かではありません。
2つ目は、それがすごく時間のかかる作業であるということ。季節によって変わる価格、かつシングル、ツイン等、選択項目のバリエーションが多いので、人間に担当させる業務としては許容オーバーとなってしまい、完全にコピペ作業みたいになっているということ。日本では、このプライシングをするレベニューマネージャーさんを専業でやれるホテルというのがほとんどありません。だいたい支配人やフロントの方が兼務でやっていらっしゃいます。本当は接客が第一なのに、煩わしい作業に時間を取られているわけです。
そしてそれらに並行して3つ目の問題として、そんな作業だから属人化してしまっていて、経験や勘が重視されてしまい、他の人にはできない作業になってしまっているという課題があります。もうそうなると、その人を信じるしかない不透明なモノになってしまうんですね。

ホテルとしてはおもてなし、ホスピタリティが一番大事なことである一方、ビジネスとしてはこのプライシングが大事なことの1つのはずなのに、多くのホテルがそんな潜在的な課題をかかえながら、営業を続けているというのがわかりました。

それが『MagicPrice』で解決できるようになったわけですね。

そうですね。今後の挑戦としては、このプライシングの精度をより上げるためにデータサイエンティストを増強しながら、算出精度を上げ続けることですね。そこが僕らが一番投資すべきところだと思っています。
それからすでに『MagicPrice』を使っていただいているホテル側から、機能要望もたくさんいただいているので、将来的にはそこにもどんどん対応していきたいと思っています。たとえば、より高度で複雑な料金設定に対応したり、プランごとの料金にも対応していきたいと思います。
もう1つはホテルの既存の館内システムと連携していくことも考えています。すでに連携が決まっているホテルもあり、より便利になるのがわかっているので、そこも他のシステム会社さんと相談しながら行っていきたいですね。すでに使われているWEBなどを改良することなく、今まで通りのプロセスで『MagicPrice』が料金を設定し、システムに反映させるような仕組みを作っていきたいと思っています。

それは『MagicPrice』が将来的にはAPIのような形で提供されるということですか?

はい、おっしゃる通りです。やはりこれもWEBのアドテクと同じような考え方です。それまでのWEBのデザインやシステムを変えることなく、その機能を提供するという形にしていきたいと思っています。
僕らはやはりシステム全体を作るのではなく、プライシングに特化していきたいと思っています。我々はホテルの普段のワークフローを減らすために『MagicPrice』を提供するわけですから、システム全体を変えて普段のワークフローを変更させてしまっては意味がなくなってしまいますからね。

数年先の単位でいえば、プライシングはお金、数字なので、言語に依存することなく使われる余地があります。比較的早い時期に海外展開など、どんどん市場を広げていきたいと思っています。

TECH LAB PAAKに参加された印象についてもお聞かせいただけますか?

すごくいいコミュニティが作れたなと思っています。日々顔を合わせて、ときにはビジネスについてディスカッションをしたり、損得とかではなく、お互いにアドバイスし合うような関係性や、それぞれのヒアリング対象にもなったり、また誰かを紹介し合うような関係が作れて、本当に良かったですね。やはりみなさんがスタートアップの会社なので、共通して同じような壁にぶつかり、同じようなことで困るので、お互いにアドバイスし合えるんですよね。

最後に『MagicPrice』を使ってほしい方たちに向けてひと言お願いします。

僕たち『MagicPrice』のユーザーさんは、ホテルの支配人だったり、マーケターだったり、レベニューマネージメントを担当されている方々です。そういった方々に届けたい価値というと、やはり人がやるべきことは人がやって、機械やAIでいいところは機械に任せて、人間はおもてなしや経営戦略の部分に時間を費やして欲しいと思います。よく、AIが発達すると人間の仕事が奪われるんじゃないかと言われていますが、僕はそれは違うと思っていて、人間がより人間らしい仕事をすることが一番価値が出ることだと思っているので、やはり共存し合いながら、そういった仕事ができる時間を『MagicPrice』で作って、お手伝いしていきたいですね。

それから株式会社空、絶賛、人材募集中です。事業内容よりも、僕らのカルチャーや、ビジョンに共感していただけるエンジニア、データサイエンティストの方、このチームに入って一緒に働いてみたいという方、ぜひ応募してくれたらうれしいです。

ありがとうございます。

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