本に出会うきっかけを育む、手書きPOP専用のSNS。

『POPSTAR』角舘 浩太郎さん(株式会社雷公鞭)

——角舘さんのこれまでの経歴を教えてください。

もともとはWEBデザイナーとして仕事をしていましたが、今後のキャリアプランについて悩む時期があったんです。そんな時に、WEB系の勉強会に参加して講師のプログラマーの人から話を聞いたことから、プログラミングというものに興味を持ち始めました。それで3年ほど前に、講師の先生がいらっしゃるプログラミングスクールに入ってプログラミングを学び始めて、デザイナーからエンジニアに転職しました。そのスクールは起業を後押ししている学校だったこともあり、周りは起業をしている人が多くて。そんな環境にいたことで自分も起業をしてみたいと思うようになって、『POPSTAR』の開発を行う会社を立ち上げました。

 

——『POPSTAR』開発のきっかけは、何だったのでしょうか?

書籍や雑誌の流通を行う日本出版販売株式会社さんと、通っていたプログラミングスクールがハッカソンを開催して、その時のお題が「書店の体験を変えるハッカソン」というものだったんです。そこにスクールの仲間と参加して、優勝したアイデアがこの『POPSTAR』でした。

僕は岩手県盛岡市出身なんですが、盛岡市には全国的に有名なさわや書店という本屋さんがあります。このさわや書店さんは、一時期流行った「文庫X」という取り組みを最初に始めた書店ですが、もともとは手書きのPOPが有名な書店でした。地元にいる頃によく通っていたこともあって、手書きPOPの持つ力やすばらしさを知っていたことが、開発をするきっかけになったと思います。また、プログラミングスクールではプログラミングの他に最先端の技術に触れる機会が多く、今だったらVRやARを使って面白いPOPを作ることができないかなと、考えて。それで、書店ならばやっぱりARだろうと思い、書店でスマホをかざせばそれぞれの本にAR上のPOPが見られるという、ARと手書きPOPを掛け合わせたアイデアが生まれました。

 

——角舘さんの思う、手書きPOPの力やすばらしさについて教えてください。

POPというと、新刊の本にだけのものと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、カリスマ書店員さんに言わせると、POPというものは過去の作品を掘り起こすためのツールなんだそうです。というのも、新刊本はPOPを作っても作らなくても、売れるものは売れるんです。著名な作家の本であれば、出版社が用意した内容説明のカードのようなものが一緒に送られてくることもあるので、そもそもPOPを作る必要がない場合も。だからこそ書店員さんは、名作だけど売れていない本を売りたいと思っているし、それが書店員としてのやりがいになっている方が多いんです。

実際にさわや書店さんでは、名作だけど売れていない本の手書きPOPを作ることで、その本をベストセラーに引き上げた実績をたくさん持っていらっしゃいます。『思考の整理学』という本があります。この本は、発売から7年間で7万部の売れ行きだったんですが、さわや書店の店員さんがPOPを作ったことがきっかけで、その後3年で150万部にまで売り上げが伸びたという実績があります。このように、POPをきっかけにひと昔前の名作が爆発的に売れるようになることは、そう珍しいことではありません。

 

——改めて、『POPSTAR』がどのようなサービスなのかを教えてください。

開発を始めた当初は、ARと手書きPOPを組み合わせたサービスを作ろうと思っていましたが、今はPOPを見ることができるARアプリは『POPSTAR』の一部でしかありません。現在の『POPSTAR』は、書店で使われる手書きのPOPをデジタル化して、あらゆるチャネルで展開をするプラットフォームに進化しつつあります。これまで手書きPOPというものは、制作までにいくつものハードルがあるために採用している店舗は少数でした。また、ハードルをクリアしてPOPを制作したとしても、保管場所がないなどの理由から1か月間ほど掲示したら廃棄するのが一般的で。せっかく時間と手間をかけて書店員さんが作ったPOPが、そのような運命を辿るのはもったいないと思ったんです。

『POPSTAR』は、POPをデジタル化することで管理が楽になることはもちろん、これまでゴミ箱行きだったPOPが新たな資産に生まれ変わるサービスです。それをまた印刷して店頭に掲示しても良いですし、ARのPOPとして新たな取り組みを行っても良いと思います。専用のSNS機能の構築も考えているので、店頭に来ない人にもPOPを広めていくことができる、そんなプラットフォームを目指しています。

 

——書店員さんがPOPを制作する時に立ちはだかるハードルには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

POPを制作するためには、書く時間や手間が必要になりますが、その前提条件としてまずは紹介する本をPOPが書けるくらいにまで読み込まなくてはいけません。加えて、POPを作る上で表現力や技術力といった力も求められる。なので、実は書店員さんにとってPOP制作にはこのようないくつものハードルがあり、意外に軽々しく取り入れることができない作業なんですね。それならば、コストや時間をかけるよりも『POPSTAR』専用のSNSでPOPを格安でダウンロードして展開していけば本が売れます、そんな流れを作りたいと思っています。

 

——専用のSNSとは、どのような内容になるのでしょうか? また、SNS機能を追加するアイデアに至ったきっかけがありましたら、教えてください。

『POPSTAR』専用のSNSには、書店員さんはもちろんのこと、誰でも自分の作った手書きPOPを投稿することができ、それらのPOPをダウンロードできるサービスになる予定です。そんなシステムであることから、クリエイターの活躍の場としても利用してもらいたいと考えています。その時、ダウンロードされる度にクリエイターへお金が入る仕組みにして、それがクリエイターのモチベーションの向上や、書店の新たな収益につながればとも思っています。

このようなSNSのかたちに落ち着いたのは、あるできごとがきっかけです。ARのPOP紹介で以前、書店で接客をしていたところ、ご家族に連れられてきた車椅子のおばあさんがいらっしゃって。そのおばあさんがARのPOPを実際に触ってみて、「面白いわね。私はなかなか本屋さんに来られないから、このPOPが家でも見られたら嬉しいんだけど」とおっしゃられたんですね。その言葉を聞いて、『POPSTAR』は「書店の体験を変える」というところからスタートしたプロジェクトではあるけれど、実際に書店へ足を運んだ人にしか情報が届かない。書店に行きたくてもそれが難しい人にも本と触れ合う機会を与えてあげるためには、やはりSNSを始めとしたインターネットを活用すべきだと思ったんです。

 

——管理が楽になること、書店の収益になること、コストダウンになること以外に、POPをSNSへ公開することにどんな意味があるのでしょう?

先ほど新刊本のPOPのお話をしましたが、実は新刊本のPOPを書く時は1度だけではない場合もあります。例えば、発売した当時はたいして売れなかった本が、1年後に芥川賞などの文学賞を受賞した時です。そうなった時に、どうせなら新刊当時に作ったPOPをもう1回使えたら便利ですよね。後は、その本が原作のドラマが放送されたり、映画が上映されたりした時にも同様に再利用することができるので、POPをSNSで公開するメリットはそんなところにもあるのではと考えています。

そうして一部の本だけではなく、AR機能を使って店頭でスマホをかざせばどの本にも手書きPOPが表示され、それぞれに誰かしらの想いがこもっている、そんな状況になればとも思っています。さらに、そこから「この人の書くPOPは毎回良いな、この価値観は良いな」という風に、いずれは自分と価値観が似た人を見つけることができるサービスにも発展していけたらと考えているので、だからこそ『POPSTAR』はSNSにする意味があると思っています。

——『POPSTAR』の今後のビジョンを教えてください。

書店員さんのPOPがたくさん集まっている場所になることが、『POPSTAR』の最大の価値になるはずなので、まずは書店員さんのためのPOP管理システムとしての地位を確立していきたいです。そうして、クオリティーの高いPOPが集まった状態にまでなったら、一般のユーザーも利用できるSNSとして公開して、POPを作る文化そのものを広めていきたいですね。最近はその取り組みの一つとして、子どもたちに向けたPOP作りのワークショップも行っていて、未来の手書きPOPクリエイターを育てる取り組みにもチャレンジしているところです。また、POPを活用できる場所は書店だけには限りません。家電量販店や携帯電話ショップでもPOPは多く使われているので、最終的にはそのような企業とも提携していけたらと思っています。

現代はInstagramやpixivを見ればわかるように、セミプロだったり、クリエイターと呼ばれる人だったり、一般の人が活躍する時代です。なので、本を読むことが好きな人や文章を書くのが得意な人も手書きPOPをどんどん書いてほしい。あるいは、イラストが得意な人が難しい文学小説のPOPにキャッチーなイラストを描くのも、良いかもしれません。そうすることで、それまでその手の本を敬遠してきた人が、初めて文学小説に触れることになるかもしれません。『POPSTAR』というサービスが、本に触れるきっかけの一つになればと思っています。

 

——PAAKについてお聞きします。PAAKに応募するきっかけを教えてください。

PAAKの存在は、オープンした当時から何となく知っていました。もともとプログラミングのスクールで起業を目指す仲間たちと一緒にいたので、周りの人たちも感度の高い人たちが多く、面白い取り組みがあることは知っていたんです。実際に知り合いが何人も会員になっていて、すごく良いコミュニティーだということを聞いていて。昨年の9月に前のオフィスを出ることになり、タイミングも良かったので応募させていただきました。

 

——実際に会員になられて半年間、いかがでしたか?

週に2、3日はPAAKを利用させてもらっていましたが、すごく居心地が良かったですね。もちろん立地も良いですし、書籍もたくさんあるし。それから、打ち合わせに個室のミーティングスペースも自由に借りられたことも良かったです。どうしてもオープンな場で話せない話もあるので、そういった時にきちんとした個室のスペースを借りられたことは良かったなと思っています。後は、PAAKの事務局スタッフのみなさんが気軽に話しかけてくれて、いつでも優しく対応してくれて、すごく癒されました。僕は一人で作業をしていることが多かったので本当にありがたかったし、感謝しています。

 

——最後に、書店で働く書店員さんや、未来のユーザーに向けて伝えたいことがありましたら、お願いします。

POPは、人の想いそのものです。同じ本を読んでも、人それぞれ、生まれてくる感想は違います。そんなPOPは、ものすごく可能性があるはずなんです。POPを作って共有し合うという文化をみなさんと一緒に築き上げていくことで、まだまだ本は売ることができるし、これからは売り手だけが本を押しつけるのではなく、売る側も買う側も一緒になって、全員で本を売っていく時代になるはずです。誰もが本に対する想いを世の中にぶつけて、人の想いに触れて、新たな作品に出会う世界。『POPSTAR』を通じて、そんな世の中を作っていきたいと思っています。

 

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