プロダクトデザインを学ぶ学生から、突如ハードウェア起業家に──OTON GLASSインタビュー

株式会社 OTON GLASS
CEO 島影 圭佑

まずはデモンストレーション

『OTON GLASS』は、文字を読むことが困難なディスレクシア(読字障がい者)、弱視者、海外渡航者を対象とした、「読む行為」をサポートするスマートグラス。インタビュー前に、島影さんがいきなりデモをしてくれた。

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例えば、こういった日本語の文章を、こんな感じで読み上げてくれます。あと、英語の文章の場合だと、こんな感じで日本語に翻訳して読み上げてくれます。
日本語の文章をそのまま日本語で読み上げるものは、ディスレクシア(難読症)や弱視の方など、文字を読むことに困難を抱えている人の「読み」をサポートするものとして。他言語から翻訳するものは、海外渡航者が、自分の母国語が使われてない現地の文字を読みたいときのためのものです。
翻訳の精度としては、Google翻訳と同等で、文法は少しおかしいのだけど、大体の意味内容は理解できるようなものになっています。すいません、早速デモを見せてしまいました(笑)。

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メガネではないものもありますが、これはグラスというよりも、かけるだけというような感じですね。

今は、造形としてメガネ型の方向がひとつ。もうひとつは今までなかった造形だけど、かけてても不自然じゃなく、次の文化を作るような方向、という2つの方向で進めています。実際に形にしてみて、それをユーザーさんに意見を聞きながら進めています。

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ちなみに最初のモデルはユーザーさんの視線を追いかけていくようなモデルでしたよね?

そこも作っていきながら、学んでいったところなんですが、最初は視線入力に挑戦をして、視線を追って見ているところをクリックするというようなものにしようと思っていました。そのインターフェースを一度実装してみたんですが、開発したエンジニアは使えるんですよね。自分の黒目の大きさとか、目の動きを捉えるカメラに対しての目の位置や距離を設定して使うので。ただこれを一般化しようと思ったときに、始めて使う人にキャリブレーションするのに時間がかかったり、それを簡略化するシステムを構築する必要があったりと、その開発自体にコストを割かなければいけない。視線入力の導入は工数がかかりすぎるという判断で、いったん優先順位を下げて、まずはカメラの画角中にある文字をちゃんと認識できるものをつくる、というのを第一に開発を進めてきました。その上で、文字を選択するインターフェースに関しては、改めて研究開発を進めています。今は、もっとシンプルなインターフェースを検討していて、ユーザーがOTON GLASSの基本的な原理を身体的に理解していって、身体の一部として使えるようなものを目指しています。

人間が学習をして、自然に読み取れる体になっていくという感じですか?

テクノロジーを複雑にすればするほど、逆に身体から遠くなってしまう気がしていて、むしろインターフェースをシンプルにして、人間がそれを身体化させていくような余白みたいなものを設計したほうが、人間が能力の一部として取り入れていくときにやりやすいんじゃないかなと思っています。

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すいません、先にプロダクトの内容を伺ってしまい、話が前後してしまいますが、島影さんが『OTON GLASS』を作るまでの経歴をお聞きかせいただけますか?

すいません(笑)。いつも最初にデモをしてしまうんです(笑)。
実をいうと、これが僕の大学のときの卒業研究なんです。元々、首都大学東京(旧: 都立大学)でプロダクトデザインの勉強をしていました。大学3年生のときに親父が病気になって、それをきっかけに父の文字を読む能力をサポートするデバイスを作ろうと決心をしました。それがOTON GLASSです。プロダクトデザイナーの仕事は製品の造形をスケッチなどで展開していく職能なんですが、実際に親父がこれを本当に欲しいのか? ということを確かめるときに、スケッチや動かないモックアップだけだと、その検証は難しいと思いました。そこでデザイナーとエンジニアを仲間に引き入れて、実際に実動するプロトタイプを作り始めました。
なので、僕は元々はプロダクトデザインを専攻する学生で、今はプロダクトを重視しているハードウェアの起業家という感じでやっています。

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実際にエンジニアさんと出会って、ハードウェア起業家になったということですか?

そうですね。当初は、自分で簡単な実装もやろうと思っていました。当時、据え置き型のアイトラッキングのデバイスが安く出回り始めていたのもあって、PCとアイトラッキングを組み合わせて、擬似的にOTON GLASSの体験ができるものを考えていました。ディスプレイに一人称視点で街を歩いている映像が流れていて、その前に体験者に立ってもらい、そこで映像に映っている文字を見て、瞬きすると文字が音声になるというものを実装しようかと思っていました。
ですが、作ろうと思っていたときに、ちょうどエンジニアの方に出会って、これを一緒に作りませんか? という話をもちかけて、道が開けたという感じでした。誰かに声をかけて違う分野の人とコラボレーションをすると、ここまでのものができるんだ、というのを体感して、その感覚が今でも続いているというような感じです。

プロダクトデザイナーでありながら、アイトラッキングのデバイスが安く出回っているというような知見はどこから入ってきたんでしょうか?

当時、オーグメンテッド・ヒューマン(AH 人間の能力拡張を工学する分野)とかをリサーチしてたんですね。なので、アイトラッキングのデバイスがあるとか、文字認識の技術が今どういったものがあるのかとか、そういうもののリサーチは済んでいました。アイデアをまとめる際にそういうものを組み合わせて、スケッチやビデオプロトタイプを準備しておいて、常にプロポーザルは持っているような状態で動いてました。

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そういったリサーチをしていたというのは、その分野に興味があったんですか?

福祉の分野で、人間が何かの能力を失ったときに、それを補完するときにどういう方法があるのか? というのを調べていたときに、重要だなと思ったのが、そのオーグメンテッド・ヒューマンの分野でした。そういったリサーチの蓄積が僕の中にあって、父の病気という課題にぶつかったときに、自分の引き出しの中からそれが出てきて、つながったという感じです。

プロダクトデザインの部分でも、実際にはそういった分野の仕事をしたかったということですか?

当時から情報機器の分野に取り組みたかったというのはあります。僕が大学生の時にiPhoneが出たので、あー、本当にこういうハードとソフトとネットが融合しているものが世界を変えていっちゃうんだなという感覚がありました。

元々コンピューターが好きとか、ハードが好きというわけではなかったんですね。

はい、もちろん技術には興味があるんですが、僕自身技術に精通しているわけではありません。僕は、技術の進歩と人間の欲求というのは別々に進んでいると思っていて、「それがどこでどう出会うか?」 という視点で技術を見ている気がします。

自分の興味のある分野、たとえば福祉だったり、そういうものをテーマに調べたときに、なんらかの技術を発見して、それ応用できる! というようなイメージですかね。

それに近いと思います。

福祉に興味があるのは、お父様が病気になられたというのが影響してるんですか?

そうですね。あとは元々、本当に必要とされるもの、人間や社会が抱える大きな問題を解決するものがつくりたくて、そういう意味で福祉機器の分野には興味がありました。

『OTON GLASS』の「OTON」というのは、お父さんという意味ですか?

実は2つあって、親父(おとん)という意味と、音にするという意味もあります。その音にするってところがプロダクトのユニークネスだと思っています。ヒアラブルデバイスというか、ARだと、だいたいディスプレイでオーバレイするというのが普通なんですけど、そこを音声にするというところが、体験として面白いところかなと思います。

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そのディスプレイでオーバレイをするという形ではなく、なぜヒアラブルという考えになったんでしょうか?

最初に行動観察として、親父の生活に密着するいわゆるユーザーリサーチみたいなことをやらせてもらいました。その日は、親父が病院で診察を受ける日で、アンケートを書かなきゃいけなかったんです。それで親父がその質問の文章が読めず、何が書いてあるのかを、隣にいた先生に聞いて、その文章を発話してもらって、内容を理解していたんです。それを見て、この隣にいる人の役割をデバイスで代替できないかな? と思ったんです。それがこのOTON GLASSの構想につながりました。常にユーザーと同一の視野を持ったアシスタントが隣でささやいてくれるみたいな感じにならないかな? と思ったんです。
あとちょうど『Google Glass』が出た時期だったんですが、あれは、親父はかけないなというのが体感としてあったんですよね。Googleというテクノロジーオリエンテッドな組織文化が、SFの世界をそのまま実現してしまったという感じがしました。B to Bでは需要はあるけど、B to Cとして社会実装するのには難しいと思いました。『Google Glass』は何でもできるんですが、逆に『OTON GLASS』は、それを踏まえてなるべく機能を削ぎ落としていって、結果としてこの形になりました。

実際に作ってみて大変だったところはありますか?

やっぱりゴールは製品化してユーザーに届けるところなので、そうなると部分的な問題というよりも、全体のバランスをいかに取れるかですかね。ファイナンスとプロダクトマネジメントとリクルーティングというのをうまく回していかないと、製品ができていかない。

会社の経営みたいなことも、ということですか?

実をいうと最初に製品を作っていたメンバーは僕を含めて4人で始めたんですけど、それぞれの事情で一度解散したんですね。なので、僕一人の状態からのリスタートで、そこからまた一から仲間を集めて、今、こうしてまた進んでいるという感じです。

短期間のプロジェクト、たとえば3カ月やって、その報告を行なって終わりということだったら、比較的仲間は集めやすいかもしれないのですが、やっぱり製品を作るとなると、本当にこれをやっていく情熱があるか? とか、もの作りへの不屈の精神というか(笑)、そういうものが重要になりますよね。

現在、サイドプロジェクトとして関わってくれている方を含めて全員で16人ぐらいの方々が関わってくださっています。フルタイムは僕とCTOの栗元の2人で、栗元は10年間メーカーで機構設計をやってきた人で、作るもののクオリティがものすごく高い。なので、ちょっと話がずれましたが、その僕が一人になってしまったときが、1番の危機でしたね(笑)。その次に大変なのは、やはり資金調達ですかね。

プロダクトはここまでできましたけど、これを製品化するにはさらに研究もしなければならないでしょうし、次のフェイズに進むには資金が本当に必要になりますよね。

ハードウェアの開発は最高に楽しいんですけど、ハードウェアってやらなきゃいけないことがたくさんありすぎて、ハードといってもソフトウェアのほうも頑張らなきゃいけない。とにかく取り組むべき要素が多すぎて、多様な専門性を持った人がチームにいないと成り立たないので、そういうメンバーに参加してもらうためにも資金が必要です。
インターネット世代のスタートアップだと、2人でウェブサービスを作った、みたいな事例は多いと思いますが、ハードウェアのスタートアップだと、そうはいかないという感じで、どれだけいろんな専門性を持った人を巻き込めるかが重要だと思います。

『OTON GLASS』のソフトウェアもCTOの方が作っていらっしゃるんですか?

そこはまた先ほどのCTOとは別に、ソフトウェアエンジニアの方が作ってます。今、関わってくださっているソフトウェアエンジニアの方は、サイドプロジェクトとして関わってくれているので、フルタイムのソフトウェアエンジニアの採用ができると、今後もっと開発が進むと思います。

それはどのあたりの専門性が必要ですか?

今、『Raspberry Pi』でプロトタイプを作っているので、まずラズパイでの開発経験がある人。その上で、画像認識周りの専門性がある人が入ってくれると、めちゃくちゃ進むと思います。

やはり新しいハードウェアを作るというのは大変な作業ですね。

そういう意味でプロトタイプを実装して体験をしてもらうというのが重要ですよね。アイデアがあっても、本当に作れるのか? という話になりますから。まずプロトタイプを体験してもらって地に足を着けながら大きなヴィジョンを掲げることで、次のフェイズに進めると思います。

ちなみに現在のバージョンのメガネ部分などはどうやって作っているんですか? かなりクオリティが高いですよね。

3Dプリンタです。普通の積層の3Dプリンタを使ってますが、最新のバージョンは、光造形といって液体に光を当てて固めるタイプで、かなり複雑な造形が作れるものを使っています。

そういった専門性を持つ人々が集まったチームをまとめるのもまた大変だと思うのですが、島影さん自身はチームをまとめたりすることも好きなんですか?

好きというよりも、プロダクトをつくるにはどうしたらいいか? ということから逆算をしてチームを作るようなイメージですかね。やっぱり一人ではできないので、そうなりますよね。

最終的な目標は何なのか? となったときに、やっぱり製品化して、本当に必要としている人に手渡したいという1点なので、そこから逆算したときに、自分のやるべきことが決まっていくという感じです。

つまり作りたいものがあるから、やるぞ!! という意気込みですかね。

そのために何でもやるって感じです(笑)。

さらに製品化をしたあとの将来は、どんなところを目指してるんでしょうか?

よく考えるのは、スタートアップとしてのイグジットですよね。上場するか、バイアウトするかみたいなことだと思うんですが、バイアウトするとしたら、製品化したものを売ることを考えたときに、自分たちがものを売るよりも、その会社さんで出したほうがユーザーさんにとっても良いし、僕らにとっても良い条件だったら、それもあり得ますよね。上場するとしたら、やっぱりアップルみたいな会社にしたいです。

TECH LAB PAAKは刺激的な場所

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TECH LAB PAAKに参加してみた感想を教えてください。

まずここに参加すると、いろんな人と出会えるな、と思いました。そこがやっぱり価値かなという感じで、ほかのコワーキングスペースとか、僕らは他のインキュベーションプログラムにも入っていたんですけど、そういうところはアプリとかウェブサービスのスタートアップが多いんですよね。そういうところとはまた違う感じで、僕らみたいなハードウェアもいれば、VRの人もいるし、自分の研究に取り組んでいる人もいれば、既に多くの顧客を獲得しているサービスを運営している人がいたりと、入居者の方々を見ると何でもありという感じですよね(笑)。
やっぱり作っている人と触れあう点がまた楽しいですね。そういう人たちが何を考えているのというのは、こういうところじゃないとわからないので、とても刺激的ですね。

最後にこのプロダクトを使ってくれるエンドユーザーさんに向けて何かメッセージをいただけますか?

一緒に育てていってもらえたらうれしいです。改善すべきところや、新たに挑戦すべき研究開発などがまだまだあるので、OTON GLASSの在るべき姿を議論して、一緒に育てていただけると嬉しいです。

ありがとうございます。

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