神経科学を教育に結びつけることで教育の現場にも大きな変化が生まれる!――青砥瑞人さんインタビュー

DAncing Einstein Co., Ltd. Founder & CEO 青砥瑞人 (Aoto, Mizuto) さん

高校中退後、脳に興味を持ちUCLAで神経科学を学ぶ

まずご自身のプロフィールを教えていただけますか?

今は脳神経マニアということになっていて、とにかく大好きなんです。今は研究してるわけではなく、神経科学の知識を教育と絡めてうまく運用できないかと考えています。

背景としては、僕は日本の高校を中退しているのですが、それまでずっと野球をしていて、メンタルとスポーツパフォーマンスの関係についてとても興味が湧いたんです。それまで本なんか読む柄でもなかったぼくがメンタルとスポーツに関する本を読むようになったんですね。すると、メンタルとはどうも脳が関係しているみたいだ、ということに行き着いたのです。

そこで、Google先生に「Brain Sports University」というような形で検索すると、アメリカのUCLAという大学が出てきて、実際に見学に行くと、もうこれは一目惚れですね。世界最高峰で脳のことを学びたい、そう思ったんです。そしてそこからは一心不乱に勉強。日本の高校中退ですからそんな簡単に入れるところでもないので。しかし、なんとかUCLAの神経科学学部に入学し、しかも飛び級で卒業出来たんです。本当は神経系の医者になろうと思っていたのですが、アメリカの医師免許をとるための学費を稼ぐために日本に帰ったときに、神経科学の知識は別に医学だけではなく、他の分野でもうまく使えそうだと思い始めまして。それをやってるところが、日本にはなかったんですよ。認知科学や、所謂、脳科学というのはあるのですが、神経科学は脳を細胞・分子レベルで見るという観点から少し違くて。

やっぱりアメリカかなと思い調べたところ、ハーバードやMIT、スタンフォード、コロンビア大学が、「エデュケーショナル・ニューロサイエンス」という新しい学術分野をで立ち上げていたんです。これだと思い、そのパイオニアたちにメールで問い合わせて、実際に現地を赴き、ディスカッションする旅を2~3カ月やっていました。

その中で、いろんなアイデアだけでなく彼らの論文をいっぱいもらうことができたんです。でも、これが読んでみるとすごく難しいんです(笑)。勿論英語なんですが、普通のアメリカ人が読んでもよくわからない専門的な話ばかりなんです。これ誰のためのものだ、って思いました。この素晴らしい研究の数々は、世の中の教育者だったり学生だったりが使えるようになったほうがいいじゃないかと考えました。

その間を繋げる人はいるのかなって思って調べてみると、科学者は科学者、教育は教育っという感じでその知見をうまく運用できる人がいない。やっている人がいないならば自分がやるしかないということで、日本に帰ってきて1年半ぐらい前に会社を立ち上げて今に至るといった感じです。

「NeuroEdTech」という新しい分野で神経科学を教育や学習に応用

今のプロダクトを立ち上げようと思ったきっかけを教えていただけますか?

僕がやっているのが「脳×教育」というのが軸なんです。このPAAKでは、その中の「脳×教育×IT」でやっています。学習者や教育者へのサービスで、「NeuroEdTech」(ニューロサイエンス×エデュケーション×テクノロジー)という新しい分野を作っています。神経科学というのは、人間の脳を細胞や分子レベルで解明しようという学術分野です。いわゆる神経科学というと応用先が医学になってしまうんですが、それが教育や学習に適用されてもいいのではないかと考えたんです。だって、教育・学習している時に脳を使っていますから。

会社のプロダクトとしてはITは分野のひとつということですか?

そうですね。アメリカのエデュケーショナル・ニューロサイエンスのパイオニアたちとのディスカッションで感じた課題として、最初に現場を知らなければいけないというものた強くあったので、いろんな先生たちにヒアリングをいっぱいしましたし、実際に教室を深く観察することもしました。学校の教室の中には、様々な課題があります。それを何とかしようと思っている先生もいっぱいいて、本を読んだりセミナーなどに行くのですけが、半分くらいはそれで満足してしまっています。一定数の先生は実践していますが、お話を聞いた先生の中ではひとりもうまくいっていませんでした。本を書いているような人は、いわゆるカリスマ教師だったりします。その人たちはスペックをいろいろと持っている中でやっているので、誰がやってもうまくいくものではないですよという話をしました。

でも本にある内容などはいいヒントにはなるはずだから、しっかり自分の教室の教室の特色を捉えてやっていければ、うまくいくのではないかという仮説を立てました。そこで、先生たちに実際に様々な膨大な記録を取ってもらったんです。どういった観点でこのクラスを見ていったら成功に持っていくためのデータが取れそうかというのを、こちらが伝えていきました。もちろんその背景に神経科学の知見が盛り込まれているのです。

扱っているのは、例えば「自己肯定感」というもので、それ自体は抽象的な言葉です。世の中で「自己肯定感」と言っていて、それを現象として説明ができる人は少ないと思います。我々は神経科学を使い、そうした抽象的な言葉を細胞・分子レベルで現象で捉え、そこに最適なアプローチを科学的に提案するということをしています。データを取り始めたのが2学期だったのですが、冬休みに貯まったデータを分析し、いろんな改善策を生み出していったんです。すると、3学期に子供たちがすごく変わるんですよ。小学校2年生だったんですけど、自信がなかった子供たちが自分の良さだったり強さだったりを見いだし始めて、自信を持ち始めたんです。先生たち自身もそれを見て、「あっ、子供たちってこんなに変わるんだ」という感じに変わって、記録の価値だったり、教えることの楽しさ、教師のやりがいに気づくんです。そんな様子を見ていてぼくもうれしくてしょうがなかったですね。

ただ、この先生が様々な記録等をアナログ的に取っていて、さらにその分析法などは先生にはなかなか難しいことです。しかし、この先生の記録の手間や記録の分析といったことは実はITがとても得意とするところなのです。よって、我々のNeuroEdTechがここに介入するのです。今後教育の中心テーマになる「情操教育」という抽象的な内容を、神経科学により、細胞・分子レベルの現象として捉え、その教育に必要な記録手段や分析をITに担ってもらう、そんな取組りになります。これを実行することにより生身の先生の価値というものも見出すのが我々の使命でもあります。

先ほどの自己肯定感の話ではないですが、生徒の成長の可視化は生徒自身の感動に繋がり、その感動は保護者にも波及し、そして先生の感動をも生むのです。こんな感動の連鎖をこれからも生んでいきたいですね。

一定期間同じ人たちと会えるというところがこの場所の価値

TECH LAB PAAKの印象を教えていただけますか?

ある一定期間同じ人たちに会えるというのが、僕は価値かなと思っています。リクルートが運営しているということもあり、信用できる能力が高そうな人たちが集まっています。そういった人たちとある一定期間一緒にいられるということ以外に、イベントを開催する場すら提供してもらえるんです。今まで知らなかった人たちと一緒にイベントを企画したことがきっかけで、新たなプロジェクトが生まれたこともありました。これは、一定期間一緒にいられるという空間がなかったら、なかなか成立しなかっただろうと思います。実際にPAAKメンバーの熊谷君とマインドフルネスのセミナーを開催した関係で、現在「マインドフルネスx神経科学」で新しい講座、プロダクトを作っています。

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記憶にフォーカスした「Memory System Platform (MSP) 」を構築していきたい

今後起こしていきたいイノベーションはございますか?

実は先ほどの「自己肯定感」のお話は、現在世の教育界に蔓延る課題を解決するという発想の元、神経科学の力を加えて解決していくというものです。しかし、我々は教育界に新たな課題を創出してやろうとも考えています。今までなかったものを生み出したら、それがないことが課題になりますよね。そんな発想の元、今創っているのが、脳神経のメモリー(記憶)にフォーカスした「Memory System Platform (MSP) 」というものです。記憶とひと言といっても、長期記憶や中期記憶、短期記憶、感情記憶にワーキングメモリーなどなどいろんなタイプがあります。自分は記憶が生まれつき悪いと言うことがあると思いますが、そんな非科学的に発言なしですよ。今までは記憶の仕方を知らなかっただけなんですから。神経科学が教えてくれる学習法で、脳の使い方をして、それでも記憶が悪い場合初めて、生まれつき記憶が悪いと言って下さい。

MSPには4つのシステムがあります。どれも特許申請中ですので細かいことは言えないのですが。まずは、記憶の可視化です。どれだけ記憶が定着しているという「記憶のレベル感」というのを目の前に表示できるようにしたいと思っています。たとえば単語を覚えるのに、それが長期記憶か中期記憶か短期記憶なのかというのを、可視化する仕組みを今作っています。

それがわかるようになると、今短期記憶だから中期記憶に持って行かないとすぐに忘れちゃいますといった提案ができるようになります。それぞれの記憶に対して記憶の仕組みが違うので、それに見合った刺激と適切な学習をしていく必要があるのです。音で覚えた方がいいフェーズ、視覚で覚えた方がいいフェーズなど様々です。

ふたつ目は、記憶定着促進のための刺激です。いわる学習というと「五感学習」がいいと言われることがあります。でも、その「五感学習」という言葉に縛られていると、見失ってしまっている大事なインフォメーションがあります。どんなに「五感学習」をしていても覚えられない人と覚えられる人がいるのは明白ですよね。何が違うのでしょう。説明できる人は少ないはずです。一つに脳の「意味記憶」を司る部位の活性ですね。ここを刺激してあげなくてはなりません。タイミングも大事です。そして、それ以外にも「五感学習」では見失う所だらけです。僕たちは現在13の刺激を学習者に与えて記憶定着効果を促進しています。記憶的着効率を高めるだけでなく、忘れにくい記憶を作ります。

3つめは、人間ひとりひとりの記憶をパーソナライズするというところです。ヘルマン・エビングハウスの「忘却曲線」というが有名ですが、これは人間はどういう風に忘れていくのかというのをグラフ化したものです。それ自体は間違いではないのですが、これが誤用・乱用されていることが多いのです。

この「忘却曲線」は、意味の無い文字列を覚えた時のものであって、「apple」みたいな意味のある単語では適用することができません。人間の覚えていくレベル感やタイミングは、人それぞれ異なります。僕たちがいま取り組んでいるのは、ひとりひとりの忘却曲線や記憶を定着させていくための曲線のどちらも可視化させるということです。そして、ベストなタイミングで復習のタイミングを計算してくれるというのを作っています。単に、学習者の点数と時間軸と言った2軸の算出ではなく、その独自の記憶曲線を作るのに10以上の個々人のデータポイントがあり、そのポイントは神経科学的観点から考えられています。

4つめはロジックやアルゴリズムがまだ固まっていないのですが、効率よく覚えるために、記憶力自体を伸ばせないのかというのが大きなテーマになっています。今まで3日間掛かっていたものを、1日で覚えられるようになったら記憶力が伸びたと言うことになると思いますが、それを実現できる仕組みがあると思っています。その設計を日々考えているところです。

この4つのMSPが設計されると、教育界にイノベーションが生まれると思うのです。記憶を扱わない教育はないわけですし、英語、歴史、医学、などなどあらゆる教育に使えますし、4つ目の記憶力向上システムが創られれば、アルツハイマー病を始めとする認知症の予防や改善に有効活用できる可能性もあります。とにかく、記憶というものを扱う全ての学習基盤・プラットフォームを創り人の学習の在り方を変える、そんなイノベーションを起こしたいな、と考えています。

脳を有効活用するにはインプットとアウトプットが重要

このプロダクトに興味を持っているエンドユーザーに対してメッセージをお願いします。

まず知っていただきたいのは、僕らの創るMSPが助けられることは、基本的にはインプットの加速度を高めるだけということです。昨今、アウトプットの重要性が説かれています。アウトプットが重要なのは紛れも無い事実なのですが、インプット無しのアウトプットもこれまた問題です。アウトプットが重要なのはインプットが入った前提、あるいはインプットの補助としてもアウトプットした方がいいということなのです。今までの課題は、インプットの比率が高すぎたことです。しかし、だからといってインプットの量を減らすのもナンセンスです。そうでなくて、インプットの加速度を高め、余った時間でどんどんアウトプットして下さい。脳はあらゆる情報を柔軟に統合したり発想したりしてくれる素晴らしいシステムです。人工知能が代替してくれる部位もありますが、例えば新規創造性はなかなか人工知能が担うのに時間がかかるはずです。そんなことをやってのけるスーパーコンピューターのあなたの脳を最大限駆使し、アウトプットするために、MSPを使ってどんどんインプットして下さい。そして、あなたのあなたらしい、あなたの脳らしいアイデアをどんどん世の中にアウトプットして下さい。

ありがとうございました。

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