よりスポーツ的なVRのひとつとして体験してもらいたい――安本匡佑さんインタビュー

安本匡佑さん
神奈川工科大学
情報学部 情報メディア学科 助教

1年間同じ大学で働いた助教ふたりで活動

まず安本さんのプロフィールを教えていただけますか?

東京芸大の映像研究課で博士を取って、1年間フリーで活動していました。それでは食べていけないため仕事を探していたところ、東京工科大学で助教の募集があり応募しました。助教をしているときに某先生が会議中にMAの話をされたので、その頃に取り組んでいた「VISTouch」をMA10に出展したのがMAとの出会いです。

4年目の2014年になったときに、現在一緒に活動している寺岡丈博さんが助教で入ってきてきました。その翌年に私の大学の任期が切れてしまったため、現在の神奈川工科大学に勤務先が変わっています。寺岡さんとは1年間同じ職場にいたので、ふたりで役割分担していろんなところに出していこうということでやっています。

寺岡さんが参加されてからプロジェクトが始まったのですか?

「電子弓」のプロジェクトは2012年からやっています。それで寺岡さんが後から参加したという形です。

HMDレスでVRのような体験ができる弓形のARデバイスを開発

プロダクトをご紹介いただけますか?

弓形のARデバイスで、現在のは参式(バージョン3)になります。何ができるかというと、360度全方向に対して自分が弓を構えて狙ったところの仮想世界の映像が現実の同じ方向の壁や天井に投影されます。丁度自分の周囲に仮想世界が広がっていて、自分が見ている(狙っている)場所だけ映像が見えている状態です。また本物のアーチェリーのパーツを使用しているため、実際に弓を引くのと同じような感覚で狙った場所に、弦を弾いた量に応じた威力で仮想の矢が放てます。

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最初の頃はフルサイズの和弓を使っていました(壱式電子弓)。東京ゲームショウに大学で出展していたのですが、それを統括していた先生の目に止まり、出展してみないか? と言われました。ただ子供が持つには大きすぎました。そこで3分の2ほどのサイズの四半弓という和弓に載せ変えたものを開発しました(弐式電子弓)。この電子弓を使った作品「The Light Shooter」の評判が良く、海外に招待されたり展示してくれというオファーがありました。

ただこの和弓を空港に持ち込む際に、毎回捕まるんですよね(笑)。スキー用のハードケースに弓を二張り入れていたのですが、大きすぎて普通の手荷物として預けることができず、毎回取り調べを受けるのは大変でした。またこの作品では外部にプロジェクタを設置していたため、正面にしか映像を出すことができませんでした。弓側の機能的にはどの方向にでも矢は打てたのですが、その映像が見えないのでもっといい方法はないかなと考えていました。

その頃HMD(ヘッドマウントディスプレイ)にも興味があったので、Oculus Riftもすぐに買いました。それでかけてみたら、5分ぐらいで頭が痛くなって吐き気がして・・・・・・30分ぐらいのたうち回って、2度と付けねぇと(笑)。ただ、Oculus Riftを付けたときの体験はすごくいいなと思ったんです。そこで、HMDを使わずにVRのような没入体験ができるものを作りたいという意志と、これまでやってきた弓を組み合わせたのが「参式電子弓」です。

HMDの欠点に、酔いやすいだとか映像の奥行きが無いというのがあります。また、すべてバーチャルの映像のため、自分のリアルな手やインターフェースを見ることができません。弓を構えて狙う感覚と映像の中のレティクルを見ながら狙うのでは少し感覚が異なっていますが、それをHMDだと表現しきれない。また触った感じ、重さ、硬さ、温度、重量といったモノ感を表現するには、本物の道具を使用した方がいいだろうと判断しました。それが現在の形になります。

コンパクトにもバラせますし、プロジェクターを内蔵しているので360度自分が向いた方向に映像を投影することができます。弓の場合は、自分が狙っている場所と見えている場所はだいたい一致しているため、その部分だけ見えていれば違和感もそぐことができます。

projects_yasumotomasasuke_sub_2大きい方が現在の「参式電子弓」。小さい方は新しいバージョン「参式電子弓改」で、各種性能が上がっている他、プロジェクターなどがはみ出さずに収まるように再設計されている。

このプロダクトを作られて、現在はどのような活動をされていますか?

今は展示がメインです。今後はビジネス展開をちゃんとやりたいなと思っています。現在の「参式」では移動を検知することができません。あくまでも、部屋の一カ所に立って回転することしかできないのです。次のバージョンでは、前後左右の移動などを検知できるようにしたいと考えています。あらかじめどこで展示するのかがわかっている場合は、その部屋の3Dデータをインプットすれば、壁などの障害物に隠れて敵を確認したり複数人で対戦なども行えるようになります。そうした、もうちょっとアトラクション的なものにしていきたいと思っています。

今のプロダクトはどちらかというとゲームよりに作られていますが、本物のシミュレーターよりにすることが可能ですか?

できます。実際にデータも取っていて、弓道経験者とアーチェリー経験者、まったく弓を扱ったことのない人で比較実験をした結果、有意差が出てきます。正確に弓の引き具合どこを狙っているかというデータを取ることが可能です。いわゆるアーチェリーや弓道の練習場は、かなり広いスペースが必要となります。このプロダクトならば、狭い部屋でも十分に練習することができます。弓道のほうは的に当てるというよりも、自分の内面的な部分や構えなどの動作も重要視されるため、どちらかというとアーチェリーのほうが練習には合っていますね。

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大学とは違ってリアルに作るという雰囲気があって面白い

TECH LAB PAAKの印象を教えていただけますか?

2015年の2月にオープンした頃から参加していますが、大学に研究室があるためそちらで事足りてしまうことが多いですね。むしろこちらに来るのが遠くて(笑)。ということもあり、1期の頃は片手で数える程度しか使っていません。

参加してメリットのようなものはございましたか?

今年の1月からまた使わせていただいているのですが、週1ぐらいで来るようにしています。どちらかというと交流的なものができればいいなと思っているので、いろんな人の話を聞いています。こちらの人たちは目的を持った人たちが集まって打ち合わせや開発をしていて、強い意志を持って前向きに取り組んでいる雰囲気があり非常に刺激になります。自分も負けないように取り組まなければと励みにもなります。

VRにはインターフェイス部分のリアリティが重要

これから起こしていきたいイノベーションはございますか?

最近はVRが注目を浴びていますが、いずれもHMDの話題ばかりです。VRにはそうではない、インターフェイスの部分のリアリティも重要だと考えています。HMDはほとんど視覚と聴覚に関わる部分しか注力されていません。たしかに傍目にはわかりやすいし、集客もできるしお金も取れるのかもしれません。しかし、そうではないリアリティの部分もしっかりとやっていかないと一過性のブームで終わってしまう可能性があります。

HMDだとどうしても個人デバイスになり、端から何をやっているのかわかりづらい。けど参式電子弓のようなプロジェクション方式であれば、プレイしている人以外の周囲の人たちと体験を共有することもできます。また、インターフェースの持つリアリティも引き出すことができます。そういったHMD以外のVRの可能性を前に押し出して、よりスポーツに近い体感できるリアリティ、映像や視覚情報に寄らないリアリティ。そういったもので、VRの隙間的な部分を盛り上げいければなと考えています。

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実際に体験してもらうことで初めて伝えたかったことがわかってもらえる

このプロダクトに興味を持たれた方にメッセージをお願いします。

HMDが合わない人は自分の同士だと思います(笑)。「参式電子弓」は、持った感触や撃った感触を重視しています。そのため、映像や文字情報ではなかなか伝わらない部分だと思っています。これから展示する機会を作っていくので、実際に触って欲しいですね。その場所で実際に電子弓を撃った瞬間ぐらいに、自分が伝えたかったことがわかってもらえるような気がします。映像以外のVRの未来というか、よりスポーツ的なVRのひとつとして体験してもらいたいですね。

ありがとうございました。

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