最新テクノロジーを通して“現代魔術”を表現していきたい──ゴッドスコーピオンさんインタビュー

Photo by Kenta Cobayashi

メディアアーティスト ゴッドスコーピオン
Psychic VR Lab
Twitter : @GoddoSukoupion
Facebook : Sukoupion Goddo

最新テクノロジーを使って現代魔術を表現したい

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最初にゴッドスコーピオンさんのプロフィールを教えていただけますか?

渋家(シブハウス)、Psychic VR Labに所属し、メディアアートをやっています。これまでの活動なんですが、2年前、魔術、テクノロジー、時間軸、空間軸のフレームの変化をテーマにした作品『Stricker』が文化庁の平成26年度メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択されたほかに、音楽に合わせてヴァーチャルな空間を生成するVR(ヴァーチャルリアリティ)空間ジョッキー『Spatial Jockey』、東京リチュアルバンギアブドゥル氏との共作でVRリチュアル作品『NOWHERE TEMPLE Beta』、小林健太、中里周子との展示『ISLAND IS ISLANDS』での『ISLANDS』といった作品を作りました。

現在のプロダクトを始めるきっかけを教えてください。

『Stricker』という作品では、最新テクノロジーを使って現代魔術を表現したいと思って作っていたんですが、その作品が文化庁のメディア芸術クリエイター育成支援事業に採択された年の12月に、友人に面白い人がいるから紹介したいといわれて、そこで紹介を受けたのが、今回のプロダクトチームPsychic VR Labの代表取締役・山口征浩さんで、当時山口さんは“超能力者”になりたいていっていたんですよ(笑)。

自分は現代魔術をやりたいなと思っていたところに、山口さんは超能力をやりたいっていっていたので、もう完全に意気投合ですね。

そんな中、山口さんに「ゴスピくん(ゴッドスコーピオンさんの呼称)、今後どんな感じて活動をするの?」って聞かれて、「いや、特に決まっていないです」って答えたら、山口さんがうちでヴァーチャルリアリティやるから一緒にやろうよっていうことで、Psychic VR Labに所属し、現在に至ります。

魔術や超能力というと、修行僧が苦行の末に悟りを開くみたいなことだったり、超能力者が「ハハッ」と何か物を浮かせるみたいな話になるけど、もっと歴史的にさかのぼると、たとえば卑弥呼のような時代になると、卑弥呼が天候を操るみたいな話になるんですね。それって実はテクノロジーとして天候を理解していて、それを政治に利用し、国を統治するみたいな話でもあると思うんですね。

で、自分たちの時代のそれは何なのかというと、たとえばTwitterやFacebookをやっていると、テレパシーじゃないけど相手が何をしているのかだいたいわかったりとか、現代のテクノロジーを通して、実は人間本来の能力を超えた超能力的な部分といのがいろいろできるようになってきているといえるのかなと。
そんなことを考えているうちに、今のテクノロジーを使ったネクスト魔術、ネクスト超能力ってなんぞや? というのを研究したり、作品を作りたいというのがモチベーションになり、そこから現代魔術をやりたいというのにつながっているんです。

なぜ、魔術をテーマに選んだんですか? 昔から魔術が好きだったのでしょうか?

魔術に興味があったというよりも、きっかけはハンナ・アーレントという哲学者の著書『人間の条件』を読んでですね。
その本には人間の活動的生活には3つの要素のようなものがあるという話が書かれていて、ひとつは「labor」お金を稼ぐために労働することで、もうひとつは「activity」っていって生活することや食べること子供を作ったりすることみたいなこと、最後のひとつが「work」仕事ですね、要約すると世界・宇宙のために人がやることみたいなことが書かれた本で、それを読んで自分の人生を考えたときに、何かやるんだったら基本的に自分の人生よりも長いスパンのものを取り扱うことが作家として重要だと思ったんです。そんなきっかけから、魔術とか、空間と時間をテーマに扱うことにつながりました。

VRを使えば新たなる表現が可能になる

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そこから現在取り組まれているプロダクトへの経緯を教えてください。

いざ超能力とか魔術をやっていこうといっても、なかなか足がかりみたいなものを発見するのは難しくて、Psychic VR Labでは去年1年間、VRを触ってみて何ができるのかな、ということを模索というかリサーチをしながら、そこで最初に『Spatial Jockey』という作品を作りました。

https://vimeo.com/127930386

これは音楽に合わせてVR空間を生成するものなんですが、元々自分がDJでもあったので、音楽の物語性に合わせてリアルタイムに空間がVRの中で変質していくみたいな、音楽の速度感で実空間的世界観みたいなものをヴァーチャルで物を変えていくような作品を作りました。これは、自分が操作した空間を複数人が同時に体験できる装置です。

世の中にはヴァーチャルディスコみたいなイメージが昔からあると思うんですが、それを現代のテクノロジーを使ってやってみたらどうなるのか、そのコンセプトモデルを作ってみたかったというのがあって、VRを使って東京にいても九州の山奥にいても空間を共有できるような、音楽や空間、イベント自体もコンポーネントできる作品を実際に作ってみました。

また具体的なプロダクトとして、現在ふたつのプロダクトを進めています。

ひとつはVRを使ったファッションEコマースサービス『STYLY』というのを開発しています。

これはVRが浸透してきたりとか、それを見るための手段、たとえばMR(ミックスドリアリティ)とかいわれているホロレンズというのがまもなく世に出るんですが、そういうのが普通になってくると、服とか物の売買とかもVRの中でやりたくなると思うんですね。

友達同士でたとえば、

「最近、あの服が気になるんだよね~」
「え、どんな服?」
「これこれ~」

という話をしながら、VRでその服を目の前に出して、お互いにそれを見て、そこで実際に買うというようなことまで、SFの世界を見聞きしている我々には想像がつきますが、実際にはまだぜんぜんVRでできない世界なんですよね。
それを今、開発しています。それが『STYLY』です。

で、もうひとつはVRで小児向け歯科治療をサポートする歯科プロジェクトをやっています。

これは、大阪の医療法人に島田先生という理事長さんがいらっしゃるんですけど、島田先生のやっていらっしゃる歯医者さんに、結構、大阪のどこの歯医者に行っても泣いてしょうがなかった子供たちが最終手段で治療にくるらしいんですけど、そこでの治療にVRを使ってみようという研究を一緒にやっています。

子供って、やっぱり歯医者さんが恐いというイメージがあるせいか、歯医者が嫌い子が多くて、もう歯医者さんに行くだけで、トラウマ的に泣いて暴れて治療ができないみたいな子がいるんですね。島田先生の病院では、そういう子たちと治療の前に綿密にコミュニケーションを取って、すべての不安を取り除くようにしてから治療に入るんですね。
そんなふうに治療をする前段階のコミュニケーションをプレパレーションっていうんですが、そのプレパレーションにVRというか、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)が使えないかということで、研究、リサーチを始めました。

案外、HMDを付けるというような行為自体が子供の興味を惹くんですね。それまでとにかく泣いて治療させてくれなかった子供が、HMDを付けて目の前のコンテンツに自然に集中できると、これが泣かずに最後まで治療ができるという効果がすぐに現れるんですね。それまでは何度も治療が中断して、本来は1回で済む治療を数回にわけて行っていたのが、まだプロトタイプなんですが、この方法によって治療の中断というものがなくなるという成果が得られました。

で、現在はさらに研究を進めて、HMDが子どもたちの頭のサイズに合うように、デザインだったり耐久性といったことを考えながら、コンテンツの内容についてもいろいろ考えながら開発を行っている段階です。

TECH LAB PAAKの印象はどんな感じですか?

TECH LAB PAAKに参加しようと思ったきっかけは。結構ラフで、たまたま募集しているのを知って応募しました。

使ってみて思ったのは、まずここの場所がよくて、ミーティング等で人を呼びやすいし、みんなで集まって作業をするのにも渋谷という立地は助かりますね。

それから異様にホスピタリティが高いです。飲み物があったりだとか、特に本ですね。技術書なんかも揃っているので、ちょっと気になるものを読んでみたりできるのがうれしいですね。あとは泊まれたりしたら最高なんじゃないですか(笑)。

行き着く先は、思考速度に追いつく身体能力

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これから実現させていきたいイノベーションについて教えてください。

魔術ってVR登場以降、どういうふうになっていくんだろうという話をすると、これまでって悟るために長い間修行をして時間をかけていたと思うんですが、時間をかけてというより修行って長いから修行なわけじゃないですか(笑)。でもこうVRって、メディアアーティストの落合陽一さんとかがいっていたことなんですが、これはクイック悟りだと。

それは結構、そうだなと思っていて、たとえばファッションデザイナーがブランドイメージを人に伝えるためには、これまではどこか会場を借りてイメージを伝えるための空間を用意するみたいな、インスタレーションを組んで、デザインした服を実際に作ってモデルに着せて歩かせて、そのブランドの世界観を見せるみたいなことをやって布教活動を行っていたのが、VRを使うことでデザイナーの頭の中にあるような世界観を含めて一発で見せることができる、かなり強力なツールなんじゃないかと思うわけですね。

これって何十年、何百年前から続く布教活動とか、頒布させるための活動のパラダイムシフトが起こっているというか、たぶんあと10年、20年したら、ファッションデザイナーが創造した世界観をすぐに他者にも体感してもらえるようになるし、なんでそれをデザイナーが思ったのか流れみたいなインフォグラフィック的なものまでVRの中で見られたりするようになるんだと思います。

VRでみんながやろうとしているもののひとつに経験の継承みたいなことがあって、たとえば互いに物理的な距離があるために、ある人ができてある人ができないことを、遠隔地からVRを通して同じ体験ができてしまうみたいなことができますよね。経験を譲渡するというか、共有するということがVRの特性のひとつかなと。

それとヴァーチャルなので、現実のロジックとは別の見せ方ができたりするのも面白い部分であるなと。VRが進んでいくとどうなるかというと、たとえば60億人人口がいて、VRに60億人入るとするじゃないですか。で、ヴァーチャルだからコピペができるんですよ。そうするとどうなるかというと、60億人×5とかいう状況が作れたりもするわけですね。VR内では現実のコミュニケーション速度よりかなり高いコミュニケーション速度で身体距離間での対話ができるようになるはずで、そんな状況になったら人間ってどうなっていくんだろうかというのに興味があって、たとえば自分をVRに入れたときに、コピペで自分を増やしたり、体の一部分だけを切り取ることが可能で、VRの中である場所に自分の右手だけがいるとか、耳だけをそこに置いてくるというように、自分の身体がバラバラの状態で存在できたり、ある種キメラ的に混ざった状態で存在することができたりもするわけじゃないですか。しかもヴァーチャルなので、そのサイズ感も現実離れした大きさでいられたりもできるんですよね。誰かが自分の右手とずっと格闘しているみたいなことも起きたりして、かなり面白いかなー、と。

人間の思考速度ってかなり速いけど、体ってそれに追いつかないわけじゃないですか。というのがVRの世界だと体も思考通りにある種ヒューマンオリエンテッドにできると、かなり抽象的なんですが、そこに体だけを存在させることでなんらかの表現ができて集客できるんじゃないかと考えています。

今年の7月3日(日)〜7月11日(月)に、画家の小田島等さん、アニメーション作家のひらのりょうさんとキュレーターの青木彬の元、日暮里のHIGRURE GALLERYで『UTOPIA』という展示を行い自分はそのギャラリーの2階にVRゲームを設置するのですがVRの中で、1階、2階が本物のギャラリーで、そこに仮想の3階、4階、5階とか、地下みたいなヴァーチャルな空間を階層化させるのと、実際に来ている1階のお客さんをスキャナーというか赤外線センサーで情報を取得して、それを2階にいるリアルなお客さんが他の階にいる他者に接触、コミュニケーションをして遊ぶみたいなことが出来るものを作ろうと考えています。個人の実身体をヴァーチャルに持っていって現実では接触していないのにあたかも自分のゴーストに他者が接触してくるような現象って、かなり面白いんじゃないかと。

画家さん、アニメーション作家さんの創造力を、VRの技術で三次元的に表現し体感させるみたいなことも、VRと相性がいいなぁと思っていて、今、かなり楽しみなんです。これも一つのVRの技術があるからこそできる魔術じゃないかと思っています。

実際の空間だと集める人数にも限界がありますけど、VRだったらそこに100人、200人、1万人みたいなことも可能だし、それぞれが重なるように存在させることもできたり、そんな中でコミュニケーションしたらどうなっちゃうんだろう? 1人に話しかけているのに、そこにいる何人かが振り返ってしまうみたいな、ま、何が起きるかわからないというのも含めて面白かなーと、思ってます。

VRの行き着く先のひとつって、それこそ映画の『マトリックス』みたいな世界がひとつあって、現実のすべての情報なんてIoTでアーカイブしまくってると思うし、人間のパターンなんていうものも、すべてわかったときに、そうなるとなおさら体は人間の思考に比べて遅いから、思考だけのより速い速度で人を動かそうというときに、そういうのはVRの空間でやればいいじゃん、みたいな話になるんじゃないかなと思うんですよね。それってもう『マトリックス』ですよね。

ブランドを持つデザイナーに使って欲しい

最後に、今のプロダクトを使ってほしい方にメッセージをいただけますか。

実際のプロダクトの話でいうと、『STYLY』のほうで一緒に組んでやったら面白いなぁと思うのはファッションブランドのデザイナーさんですね。自分のブランドの世界観を表現することが、VRによって広がると思います。たとえば手段でインスタレーションを組むっていうときだって、それって地球にいるから重力前提で組むわけじゃないですか。それがVRで重力がなくなったら、どんなイメージになっていくんだろう? みたいなことって、デザイナーの思考にも大きな影響を与えることですね。物理的なものに制約されないヴァーチャルだからできるダイナミズムで自分のブランドを表現することって、それができるんだと気がつくだけでも面白いと思います。

歯科治療をサポートするVRプレパレーションのほうは、まだ研究段階、開発段階なので、より役立つ方向に、現実的な世界で進めていきたいと思います。これは歯医者さんが怖い子どもたちに実際に使ってもらえるようになったらいいなぁと思います。

ありがとうございます。

ーー展覧会情報ーー

UTOPIA

2016年の東京からおよそ1万キロと500年を隔てた1516年のイギリスで出版された一冊の小説『UTOPIA』。トマス・モアに夜当時のイギリスの世情を批判するようにして描かれた架空の国家の物語は今となっては単なる理想郷とは言い難く、ともすると画一化するせせこましい社会にも見える。
あの時から私たちは遠い理想郷を追い求め過ぎたのではないだろうか。

見果てぬ理想を追い求める前に立ち止まってみよう。

大切なのは目の前の〈あなた〉と私が立っている〈ここ〉なのだ。

出 展:小田島等、ひらのりょう
会 期:2016年7月3日(日)〜7月11日(月)[休廊日なし]
時 間:13:00〜20:00
会 場:HIGURE 17-15 cas
東京都荒川区西日暮里3-17-15
ディレクター:ゴッドスコーピオン
キュレーター:青木彬

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