VRとロボティクスと通信技術で遠隔操作義体を生み出す ── 中ノ瀬翔さんインタビュー

中ノ瀬翔さん
MacroSpace Inc.

伸びているマーケットで挑戦するためにインドで起業

まず、中ノ瀬さんの経歴を教えていただけますか?

MacroSpace Inc.というスタートアップで遠隔操作義体と専用OSを作っています。子供の頃から、モノ作りや経営に興味がありました。職歴としては、新卒でIBMに入社してシステムエンジニアのような仕事に就きました。そこで3年間は集中しようと思って働いた後、自分で起業しようと思い退職しました。

それから1年間は、政府のプログラムに参加して、香港とシンガポールで働いていました。そこで起業準備も並行して行いながら翌年の2013年頭に仲間と共にインドに行き、いわゆるスタートアップではなくITベンチャーという形で起業しました。それから2015年の春まではずっとインドに住んでいました。

インドで起業した最初の1年目は、とにかく食べていくことに必死で、受託開発をメインに行っていました。2年目からはやっと売上も増えて余裕が出てきたので、インド人ユーザー向けのスマホアプリやウェブサービス、プログラミングを英語で学びたい日本人向けの留学メディア等、自社サービスを複数開発して運営していました。

正直に言うと最初の起業は半分勢いで起業してしまったところがあり、やっていくうちに自分はテクノロジー領域に興味があるということに気がつきました。ただ、始めたからには起業時に立てた目標であるEXITを達成できるまでは絶対やろうと決めて頑張っていました。

その後、1年ほど運営してきた自社サービスを売却することができ、そのタイミングでいったんゼロに戻して自分の好きなものづくりをやろうと思い、2015年の春に東京に移住してきました。

日本に帰ってきてからは、いちエンジニアに戻って自分がやりたいと思っていたVRやARなどのモノ作りをひたすらやっていました。プロトタイプをたくさん作っていくうちに、ロボティクス、VRと通信技術を利用して、ロボットを自分の分身のように遠隔操作する「テレイグジスタンス」という領域に惹かれました。これをしっかりとしたビジネスとしてやっていこうと決意し、2016年の7月に法人化し、9月にSkyland Venturesさんからシード投資して頂きました。

なぜ起業するためにインドに行かれたのですか?

シンガポールで起業の準備をしていたときに、投資家や経営者の方々に起業相談したところ、伸びているマーケットでやれと言われたのがきっかけです。それは間違いなく日本ではなくて、新興国。その中でもインドがスゴイと。でも誰も行きたがらないという話をされて、だったら僕が行きますと(笑)。それぐらいのノリで行きました。

実は昔、バックパッカーでアジアや中東の国に行ったことがあったんです。それらの国の中で、一番好きだった国がインドでした。そうした個人的な思い入れもあり、面白そうだからインドでやってみたいなという思いがありました。

インドはどんな国ですか?

もう、あらゆる面で坩堝(るつぼ)ですね。日本人は単一民族なので、こういう特徴を持っているというのがありますが、インドは民族や人種、宗教など様々なものが混ざっています。そのため、インドはこうだと一言で表現できない印象があります。
ただ、アメリカのITを中心とした大企業のトップや、シリコンバレーのエンジニアがどんどんインド人・インド系になっているのを見ても分かる通り、理系人材輩出大国だと思います。

PH02

体の拡張としてVRやロボティクスや通信技術を使うことで大きな価値を提供していく

ご自身のプロダクトについて教えていただけますか?

VRとロボティックスと通信技術を使って遠隔操作義体と専用OSを作っています。遠隔操作義体とは、ユーザーがVR端末と触覚グローブを付けるとロボットと同期し、ロボットの目線でロボットの身体を遠隔操作することができるというものです。

今までは、遠隔の操作はすべてディスプレイなどの2Dのパネルを介して行っている場合がほとんどだったと思います。しかし、今すごく面白い時代になってきていて、こうしたインターフェイスの次元がこれまでの2Dから3Dに一段上がろうとしている段階なんです。VRやARといった端末は、3次元のインターフェイスだと考えています。たとえばこれまでパネルで行っていた操作やコミュニケーションを、ホログラムで3次元のインターフェイスを通して、その場にいるかのように行うことができます。

物理的な操作に関しても、パネルを通してではなく自分がそこにいるかのように遠隔操作をするというのが、今後は主流になっていくと思います。

具体的にプロダクトの名称はございますか?

今はプロトタイプ1号、2号、3号という形で呼んでいますが、遠隔操作義体(ロボット)を『GITAI』、遠隔操作義体用OSを『GITAI OS』という名前にしようと思っています。

某アニメのようですね(笑)。そうした発想の原点にSFやアニメは関係していますか?

そうですね。昔からアニメやマンガが好きで、そこで描かれている未来の技術が、今まさに実現されようとしている現在の状況にも惹かれています。少し飛躍しますが、目指す世界観としては、遠隔操作義体を火星に送り込み、地球から遠隔操作義体で火星開拓を行うことを目指しています。

日本に戻ってきたときに、VRやARを中心にいろんなプロダクトを作ってみました。たとえばVR端末でSNSに入ってコミュニケーションができるようなものとか、空間が切り替わっていくVRにおけるOSのような役割を果たすものなど。そのなかでやっぱり、身体拡張的な体験は、エンジニアにとってもこれまでにないものだったので、作り手としては挑戦し甲斐がある技術でした。起業家としても、これまでの移動手段を完全に塗り替えてしまうような破壊的なイノベーションになりうると思っています。

■Robot Prototype3 3

VRというとヴァーチャル世界と自分自身を繋ぐといったものが多い印象ですが、『GITAI』はVRとリアルな世界の境界線を繋ぐためのものといった感じでしょうか?

『GITAI』はVR端末という新しいインターフェースを使って、人間の身体を拡張させるためのものです。
私はVR技術を使った端末は「実質的現実感を与える3次元のインターフェース」だと定義していて、その新しいインターフェースを通してどのような価値を提供するかが重要だと考えています。
余談ですが、人間は能力を拡張したいという本能を持つ生き物で、テクノロジーを使って脳を拡張して脳の代替をしていくという流れと、体を拡張して体を代替していくという、2つの大きな流れがあると思います。PCやスマホは、あくまでも脳を拡張していくものです。そして、現代は脳の拡張でプラットフォームを握った勝者が脳の代替の勝負をしている状況です。ここはスタートアップが簡単に覇権を握れる領域ではありません。

それに対して、もう1つの大きな領域である身体の拡張の方はまだ勝ち組プレイヤーがおらず、これから市場が成長していく状況です。私は、VR端末のような3次元のインターフェースを身体の拡張のために活用することで、これまでに無い大きな価値を提供できるし、最も覇権を握れる可能性が高いと考えています。

PAAKは自分のやりたいことに集中しながらいろんな人と繋がっていける場

TECH LAB PAAKはどのような場所だと思いますか?

非常に感謝しています。週7で朝から晩までいるので、僕ほどこの施設を使わせて頂いている人間はいないと思います(笑)。あと、この場所はいろんな方々が来て紹介して頂いたり仲良くなったりするので、こもって自分のやりたいことに集中しながらいろんな方々と繋がっていける場だと思います。

今移動が必要なもののうちの何割かを不要なものにしていきたい

今後どんなイノベーションを起こしていきたいですか?

このプロダクトの価値は、身体の拡張を実現して瞬間移動ができたり、動かす身体が選べるようになることだと思っています。瞬間移動のほうは、これまでの移動手段をすべて塗り替えうる大きな破壊的イノベーションだと考えています。物理的に移動しなければできなかったことが、今後は瞬間的に動かす身体を乗り換えるという形で遠隔操作やコミュニケーションができるようになっていきます。今移動が必要なもののうちの何割かは、実質的な瞬間移動をすることで済んでしまいます。それが今後5~10年では、大きな価値になると思います。

エンジニアとして作ってみたいという動機こそが非常に大きなモチベーション

このプロダクトに興味を持った方へメッセージをお願いします!

一緒に作りたいと思っている方がいれば、どういう形でも良いので一緒にできればと思っています。こうしたプロダクトは、アニメなどでは見たことがあるけどまさか作れるとは思わなかった、という人がたくさんいると思います。まずはエンジニアとして作ってみたいという動機こそが、非常に大きなモチベーションになります。

また、このプロジェクトは僕たちだけでは絶対できないものだと思っています。僕たちは資本の少ないスタートアップなので、できれば早く遠隔操作義体用OSの開発だけに注力して、そこだけは世界一という状況にしていきたいと考えています。そのためには、ロボットやドローンなどハードウェアを専門に作るメーカーとの協力が絶対不可欠です。そういう分野に強い企業の方々からも、具体的な話は検討中という段階でもかまわないので、是非ご連絡いただければありがたいです。

他の記事も読む