デジタルホスピタルアートで医療環境に快適な療養環境を作る――吉岡純希さんインタビュー

看護師・保健師 吉岡純希
任意団体Riium 代表 / Digital Hospital Art /vvvv Japan Community

「病院で死ぬということ」という本を読んで感銘を受けたこと

まず吉岡純希さんのプロフィールを教えていただけますか?

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現在5年目の看護師で、訪問看護の領域で働いています。並行して、自身のホスピタルアートに関するプロジェクトや看護とFABの研究、vvvvというプログラミング言語の普及などをしております。

訪問看護の仕事では、在宅での生活を最期までできるようにサポートすること、快適に日常生活を送ることができるように力になることを目標に働いており、日々患者さん、ご家族さんから多くを学ばせていただいております。

高校生の頃に進路を決める際に「病院で死ぬということ」という本を読み、、自分や家族が亡くなるときの姿を想像しながら本を読んでいました。最期まで自分らしく生きる素晴らしさというのを感じ、そのサポートができたらと思い、それから看護の道に行きたいなと思うようになり、看護師になりました。

それでは現在のプロジェクトを始めるに至った経緯を教えてください。

最初は救急救命センターで働いたのですが、その中でいろんな方々と出会うんですね。

80歳前後の方が事故などの交通外傷でかなり状況が危うく余命数日という状況で、奥さんが介護施設に入所していて車いす生活。ほかに家族がいなくて誰も奥さんを連れてくることができなくて、会えないまま亡くなってしまったということもあるんですね。

医療現場でそういう方々見ていて、人生を長く一緒に寄りそった人が最期の時間をともにすごせないっていうのは、とても切ないなと思って、きっと最期まで声をかけたいし、顔を見たいっていうのがあっただろうになぁと。
僕は実際には会えないけどSkypeとか使えたら、顔も見れるし、声も聞けるのになぁと思っていました。その頃はiPadも一般的なので、持っては行ける時代ではあったのですが、相手方に持っていくことなど、そのときの環境ではなかなかそれも難しいんだなぁと壁も感じました。

しかし、こういったちょっとしたテクノロジーとアイディアで、医療現場は、もうちょっとよくなるんじゃないかなぁと思い始めたのが着想のひとつです。

あと、個人的な話なのですが、ディズニーが大好きで。中でもモンスターズ・インクが大好きなのですが。ずっと入院をしている子供って、ディズニーランドに行けるのかなぁと思ったんですね。白血病とか、特に感染しやすい病気で入院している子って、たとえ退院しても人混みの多いようなところに行けないですよね。そしたら、ディズニーランドに行けない子たちがいるわけですよね。じゃあ、ディズニーのような魔法を病院に持っていけばいいんじゃないかと思ったんです。

ちょうどそのころ、プロジェクションマッピングが世の中で有名になり始めた頃で、RhizomatiksとPerfumeのライブのプロジェクションマッピングを見て、今の時代の魔法みたいだなぁというのを実感しました。あぁ、これを病院に持っていけばいいんだな!思ったのが、自身のプロジェクトである、デジタルホスピタルアートを始めたきっかけです。そのころから、プログラミングをはじめました。

それは看護のお仕事を始めたあとのお話ですか?

はい、そうですね。
最初の救急救命センターで働いたあと、電子カルテの勉強を半年し、、本当はそこから大学院に行こうと思ったんですけど、試験に落ちてしまって。再度地域の中核病院に就職しました。

なんで間に電子カルテの勉強してたかというと、最初の病院でも電子カルテを使っていたんですが、そこで使われていたパソコンの処理速度が遅くて、スペックを見てみると、今どきこんなパソコンを使っているの? 医療現場って最新じゃないの? というような疑問を感じたんですね。
他にも業務のやり取りもファックスだとか、医療現場とテクノロジーの関係ってやっぱりまだ数年は遅れているなぁと感じて、何でなんだろうと疑問に思って研究生として勉強させていただきました。実際に医療情報について勉強すると、医療におけるデータの安全な管理の仕方だとか、電子カルテをどういうふうに病院にシステムを導入しているかとかが少しずつわかってきました。それまで看護の勉強しかしていなかったんですが、医療情報を学んだことで、病院に無理矢理最新のシステムを入れ込むことが必ずしもいいということでもないっていうことがわかって、現状できることを多くの方々が関わって少しずつ実現に近づけていることを感じたんですね。

そんなことから自分には何ができるんだろうと立ち返った時、デジタルアートと出会ったんだと思います。

ホスピタルアートがもたらす治療以外の効果

では、そもそも医療現場での活動に興味を持った理由は?

 ホスピタルアートという言葉をご存知でしょうか?
自身のプロジェクトの源流になっているのはホスピタルアートという考え方で、これは北欧発祥の文化なのですが、病室や施設に絵を描いて、暖かみのある雰囲気をつくるなど、病気を前向きに受け止められる環境づくりをしていくことです。見た目の部分だけでなく、受付の設備を子供が診察券を出しやすい設計にし、積極的に治療を受けられるようにしたり、小さいことですけど、環境をデザインすることで心の持ち方を変えていきます。入院している子供たち、治療を受ける人たちが前向きな気持ちになり、治療に積極的受けて、協力していくことは、患者さんにとっても、医療者にとっても望ましいことだと思っています。

 他にも、有名なのはパッチ・アダムスという映画で、有名なクリニカルクラウンとかですね。ピエロのような姿で医療現場を訪問し笑いを届けるような活動なんですが、本当にケガや病気を治すのに直接的には必要のないものですが、病院に笑顔を届けるということ自体がいろんな効果があるというか、人を笑顔にすることでその人を前向きにさせる効果があると思うんですね。

海外でもものすごく注目されているというわけではありませんが、やはり日本より海外のほうが受け入れられていると思います。音楽療法士という仕事があるんですけど、日本ではそれだけで食べていくのはまだまだ難しいといわれていますが、海外ではしっかりと職業として成り立っています。

音楽や映画といった娯楽のようなものって最低限の生活をする上ではなくてもいいものなんですが、そういうものこそ本当はすごく必要なものなんじゃないのかなって。自分自身がすごく落ち込んだときや辛かったときに、音楽に助けられた経験が何度もあったので。

医療において、そういうサポートをすることが大切なことだと思っています。

僕にできることは、看護とプログラミングだったので、デジタルアートでやっていこうかなと思うようになりました。

やってみたいという気持ちは、どこから生まれるのでしょう?

現在、日本人の8割の人は病院で亡くなります。つまりほとんどの人は、病院で亡くなるということですよね。

そんな背景がある中で、実際に医療現場で最期を迎える人の姿を見てきて、亡くなられる方は、最期は病室の何を見て亡くなっていくのだろうと思うんですね。
病棟の姿を想像した時に、このままだともったいないかな、少しさみしいなと思って、少しでも良くできたらというところから、実現したい気持ちが生まれていると思います。

長く生きてきて、人生いろいろあって、素晴らしい人生を過ごされてきたことを思うと、亡くなられるその瞬間をいかに満足して大切にすごすかということが、最期を迎える方にとっても、残される方にとっても、すごく大切な時間だと思うんですね。
最後まで自分の好きなことができるだとか、自分の好きな人に囲まれて亡くなっていくってことがあたり前の環境を作りたいなというふうに思うようになり、それが医療者だけじゃなくて、多くの人が関わっていけるような時代になることが意味のあることではないかなと思うようになりました。

どうしても健康的な方にとっては、病院は遠い存在というか、他人事であるように感じる大きな壁があります。しかし、家族や自分の周りでそういうことがあるとぐっと状況が近くなるというか、初めていろいろなことに気づかされる、考えさせられるということになることが多いと思います。でも、もっと前の段階、普段からそういうことが意識でき、関わるチャンスがあれば、きっともう少し医療現場でも、いろいろなことができるようになるのかなと思っています。

テクノロジーとアートは、医療現場と社会との垣根をこえる力があると信じていて、そのきっかけとなれればという思いから、取り組んでいます。

具体的にはどんなことでしょうか?

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これは目線のセンサーで、患者さんが見た場所にカーソルが動くんですが、プロジェクションマッピングで部屋全体の色が変えられる仕組みになっています。、患者さんが見た色を、そのまま部屋に投影するというシンプルなものなんで、プロトタイプとして病室に持って行きました。

筋力が衰えていく、筋ジストロフィーという疾患をかかえている方に使ってもらったんですが、ご自身の意志で部屋の色を変えたりしていくうちに、患者さんから「ゲームがやりたい」という、それまでに聞いたことがなかった言葉が出てきました。これは患者さんがすごく前向きになれた瞬間で、将来自分が意思表示を継続していくツールへの発想へとつがなって、希望を感じたのではないかと思います。
それともうひとつ僕がうれしかったのは、そのときに医療の現場にいた人や看護師さんから新たな発想をもらえたことでした。同じ病気で動けなくなった方で、俳句が好きなんだけど、もう書けなくなってしまった人がいて、その人にこれを使ってもらえれば俳句をもう少し長く書いてもらえたかもなぁという話が出て、医療の現場の人からそういうクリエイティブな意見が引き出せたことがとても印象的でした。
新たな発想のきっかけとなるものを医療現場に持ち込み、意見を互いに引き出しあいながら、今まで医療だけで解決できなかった課題の解決として、つながっていくことがもっと医療現場がよくなると思ったんですね。僕は、そういう仕組み作りをしていけたらと思っています。

さらに、こういう事例を聞いた、他の分野のエンジニアやアーティストがどんどん入ってきて、この患者さんだったら何がいいかなぁみたいなこともいろいろ話し合えるようになったら、本当にいいことだなぁと思います。

あと自分が逆の立場だったら、この目線のセンサーをベッドサイドに簡単に置けるようにして、目線で最期まで自分の好きなことが自分の意志で選べるようにしていけたらと思うんですね。音楽が好きな人だったら、自分で最期まで選曲ができるとか。、今でも家族がその人の好きな曲を流してくれたりはするんですけど、自分の立場だったら、このアーティストが好きなんだけど、今はこの人のこの曲が聞きたい!みたいなことってあると思うんですよね。そういう細かいことですが、自分で選択できることが継続できることってとても大事なことだと思います。

それから他にもこのようなプロジェクトも実施しました。
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「オドリ ハ カラダ ノ カキネ ヲ コエル」という作品です。
この子は車椅子生活をしている中学生なんですけどダンスが好きな子で、車いすなので踊るのが難しくって。ひとつのプロトタイプとして、彼の使い慣れているwiiというゲーム機のコントローラーを使って、ダンスをする影を操作し、ダンサーと彼がバトルをするというダンスバトル用のプログラムを開発しました。パフォーマーとなった彼は、ヒーローのようでした。「簡単だったからもっと難しいのやろうよ。」と少し生意気なところも、彼らしいなと。社会福祉という観点に寄せていくことではなく、単純にかっこいい作品を一緒に作っていくことで、人の前に出て何かを表現できるということにつながった例でした。自分なりに表現できることが、社会に出て行くことができるきっかけにもなるのかなと思っています。

僕は、身体的なギャップを抱えている人たちが自由に表現できることが当たり前になるようサポートしていけたらと思っています。

また、看護とFABについても研究を進めております。
突然ですが、USBが抜けなくなって困ったことはありますか?僕はあまりないのですが、疾患によって神経を損傷して、つまむという動作ができなくなった方は抜くのってすごく難しいんですね。
そういう方を想像し、個別の生活の状況や身体的な情報に合わせた補助具などを3Dプリンタで試作しております。USBが抜けないという些細な問題ですが、社会参加を難しくする壁の一つでもあります。同じような疾患を持ち、同じような悩みを抱えている人たちの課題を解決したデータを世の中で共有できる未来もあるのではないかと思っています。
看護とFABについては、慶應大学と所属しているケアプロ株式会社と共同で研究しているトピックです。

とにかく医療現場ってクリエイティブで面白い現場なんですが、、エンジニアやアーティストといったまったく違う分野からいきなりそこに入るのはまだまだ壁があると思っています。医療現場のニーズは現場にいないと気づくことが難しいので、その両方の人を結びつけるような役割を、どちらもやってきた自分ができたらいいなと思っています。
少しでも医療の現場に興味を持ってもらえたエンジニアやアーティストの方々にあと半歩ぐらいこっちに踏み込んでもらって、また医療現場からも半歩くらい、アートやテクノロジーへ踏み出してもらってチームを組めば、医療現場はとてもよくなっていくと思うんですね。

今すぐにというのは難しいと思うので、医療現場で働いている看護師の自分が、アーティスト・エンジニアという立場で、もっともっとこういう世界をいろんな人に知ってもらう活動をしていきたいと思っています。

そんな吉岡さんがTECH LAB PAAKに参加しようと思ったいきさつを教えてください。

TECH LAB PAAKのテクノロジーを使って社会をよくしようという考え方がすごくすできだなと思っていて、まさに自分が今やっていることが、テクノロジーとアートを使って医療の現場をよくするというところを目指しているところなので、共感したところが参加のきっかけとして大きいです。

テクノロジーを使って社会を良くしたいと思っている方々がたぶんいっぱいいる場所なんだろうなぁと期待していました。実際に 期待していた通りで、そういう人たちの話もたくさん聞けるということと、またスタッフさんも含めていろんな意見が聞けるので、今まで少人数でやって来たので、もっとこうしたほうがいいとか、ああしたほうがいいといった議論ができたりとか、スタートアップで集まっている人たちの交流もあるので、次のステップアップの話ができたり、アドバイスをいただけたりするのが本当にありがたく思いますね。

それと機材関連が整っていて、プロトタイピングをする上で、最初の頃は3Dプリンタを使わせてもらったり、技術書やなんかも用意されているので、そういう部分でも助けていただきました。スタートアップのプロジェクトチームにはそういうことも非常にうれしいですね。他にも、センサーもいっぱいあるので、持っていかなくても借りて開発ができました。

デジタルがもたらす医療現場でのイノベーション

これから起こしていきたいイノベーションがございましたら教えてください。

誰でも自由に表現できる世界を作っていきたいと思っています。デジタルホスピタルアートと、ホスピタルアートというワードを使っていますが、主体は僕じゃなくて、あくまでも患者さんという考え方を大切にしたいという思いがあります。
患者さんが絵を描きたいとか、俳句を書きたいとか、踊りたい、音楽を聞きたいといった願いをかなえるための環境を作ることが、僕の役割で、実現していきたいと思っています。

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また、デジタルとは言いつつも最先端である必要はなく、目指しているところはシンプルなところだと思っています。。これがその例で僕の目指しているところなんですが、患者さんはガンの末期で余命幾ばくかの状況、そこで寄りそっているのは娘さんなんですが、ベッドの横にプロジェクターを置いて、天井に子供の頃の写真を投影しています。これってものすごいシンプルなんですけど、病室のあり方や過ごし方が少し変わったかのではないかと思います。それこそパソコンが得意な方なら機材を持ち込めばできることですよね。しかし、実現には医療スタッフや家族とのコミュニケーションとその観点が必要不可欠だと思います。その人にとって一番快適な状況について、本人、家族、医療スタッフと相談し、起きるのがつらいということで、天井に投影しました。こんなことが、誰でもやれて、また話題として普段から出てくることで、多くの方が関われる状況にしていきたいと思っています。

また、日本のホスピタルアートのあり方も発信できたらと思っています。日本は四季がはっきりしていて美しいので、デジタルホスピタルアートでは、四季を病棟に持っていくというようなこともやっています。病棟で桜を咲かせたり、夏の風景を表現したり、病院内にいて季節を感じることができるって、大事なことじゃないかなと思っています。それとプログラミングで気をつけているのは、それぞれの患者さんの身体能力に合わせた調整をできるような環境をしっかりと整えていくことです。たとえば、手少ししか動かすことができない子の反応に合わせるためにプログラムを書き換えたり、動ける人なら反応をもう少し弱くするといった調整が現場でできるように、あらかじめ開発しています。

将来的には、ホスピタルアートを通して、医療現場に多くの人々が関われる環境を作ることも僕の目標ですね。

このプロジェクトに興味を持った方にメッセージをお願いします。

四季を表現したり、テクノロジーを使ったりといった、日本ならではのデジタルホスピタルアートのあり方を示していきたいと思っています。
2020年のオリンピック、パラリンピックには、日本にもたくさんの方が訪れると思うのですが、そのときに日本のホスピタルアートのあり方って面白いねと思ってもらったり、そこで体験したテクノロジーが障害を抱えている方々にとって希望となるようなきっかけになることを目標にやっていきたいですね。

あとは医療現場に大事なことなんですが、これらのやっていることがしっかりと医療に役立っているという効果を立証していくということも大切だと思っています。今やっているプロジェクトのエビデンスをひとつずつ証明していくことも目指していこうと思います。そして、様々な領域の方と協力し、より良い環境をつくっていけたらと思っております。

より多くのみなさんに、こういった世界があることを知ってもらえるよう活動を継続していきたいと思います。ご興味のある方は是非お気軽にご連絡ください。

ありがとうございます。

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