すべてのLGBTが自分らしく働き、輝ける世界へ。

『JobRainbow』『ichoose』星賢人さん(株式会社JobRainbow/東京大学)

すべてのLGBTが自分らしく働き、輝ける世界へ。

 

——星さんのこれまでの経歴を教えてください。

 

自分がゲイだと気付いたのは、中学生の時のこと。思春期を迎える頃になって、周りと好きになる人が違うなと思い始めたんですが、当時の教科書にはLGBTという言葉はないし、ロールモデルとなる大人もいなかったので漠然とした不安を抱えていたんです。そのうちにいじめを受けるようになって、一時期は学校に行けない時期もありました。そんな時にインターネットでLGBTという言葉を見つけ、世の中にはそう呼ばれる人が全体の5%いることを知りました。そう考えると、クラスの40人のうち二人はLGBTだということになる。それで初めて、自分は一人じゃないんだと思うことができました。大学に入学してからは、初めてクラスという小さなコミュニティーの外へ出て、自分と同じように困っている人がいたら助けたいという思いで、セクシュアルマイノリティーサークルの代表を務めるようになりました。

 

——大学での経験が、運営されているサービスを始めるきっかけになったのでしょうか?

 

そうですね。大学に入って、初めて自分以外にLGBTであることをオープンにしている人たちに出会いました。その中の一人はトランスジェンダーの方で、高校生までは男性として、大学に入る時に女性として入学した方でした。でも、3年生の終わりに就職活動を始めて、エントリーシートの男女欄どちらにマルをつければいいのかわからなかったり、スーツは男性用と女性用どちらを着ればいいのかで悩んだりしたそうなんです。それでも、この会社ならと思って臨んだ面接でトランスジェンダーであることをカミングアウトしたところ、「あなたのような人はうちにいないので、対応できません」と断られてしまい、その方は結局、就職活動をやめて大学も退学してしまいました。一方で、LGBTフレンドリーな会社は増えつつあります。その一部の会社の情報だけでも伝えていける、ビジネスとして持続可能なサービスを作ろうと『JobRainbow』の開発は始まりました。

 

——LGBTの方が就職活動時に直面する課題には、どんなものがありますか?

 

LGBTと一括りでいっても、L、G、BとTで課題は大きく異なります。前者は好きになる人が同性だったり、両方の性別だったりですが、Tのトランスジェンダーは好きになる人の性別の問題ではなく、自分がどうありたいかという心の性と戸籍上の性が異なる人のことをいいます。なのでトランスジェンダーの場合、まずは男女欄のどちらにマルをつけたら良いのかという問題から始まり、健康診断の書類から戸籍性が発覚してトラブルになるケースも。戸籍性は女性だけど心の性は男性という方の場合、メイクをすることに抵抗がある人もいて、面接官に「どうして女性なのに、メイクをしないの?」と言われてしまうこともあるようです。また、採用されたとしてもトイレや更衣室を自分が望むかたちで使えるのかと不安を抱いて、企業選びすらできないという課題もあります。

 

——前者のレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの方は、どんな課題を抱えているのでしょう?

 

LGBの場合はトランスジェンダーと違って、カミングアウトしなければいいのではと思われるかもしれません。でも、嘘をつかなければいかない場面があまりにもたくさん出てくるんです。例えば面接中、深い話をすることもあると思います。「人生で一番の困難を乗り越えた経験は?」と聞かれたとしたら、私はやっぱり自分がゲイであることを認めて、いじめから立ち直った時のことを話したい。でも、実際には本当のことを話せないから、どうしても二番目のエピソードになってしまうと思うんです。仕事をするのに同性愛者だろうか異性愛者だろうかは一見関係ないように思いますが、実は一般的な方は異性愛者であることを前提として生きているので、問題が見えにくくなっているんです。

 

——改めて、星さんが運営する『JobRainbow』がどのようなサービスなのかを教えてください。

 

『JobRainbow』は、全てのLGBTの方が自分らしく働けるようにという思いで立ち上げた、LGBTフレンドリー企業と当事者をつなぐ口コミ情報サイトです。サイト内では企業ごとにLGBTフレンドリーな取り組みとして、同性パートナーでも結婚している方と同等の福利厚生を受けられるといった紹介を行っています。さらに体験談として、当事者の口コミやレビューも載せています。ありがたいことにスターバックスさんといった有名なLGBTフレンドリーな起業からも声をかけていただいて、LGBTへの取り組みについて特別にインタビューもさせていただくなど、一般的な情報サイトとは一味違った企業情報を掲載しています。

 

——もう一方の『ichoose』は、どんなサービスなのでしょうか?

 

LGBTフレンドリーな企業と当事者をつなぐ目的で『JobRainbow』を始めたものの、このサービスでは情報を届けるというところまでしか達成できていませんでした。フレンドリーな取り組みをしている会社は大企業が多いし、取り組みたいと思っている企業があっても、マッチングすることができなかったんです。当事者の目線から見ても、口コミだけでは100%安心であるという状況にはなりにくく、なかなかカミングアウトすることができなかった。これらの課題を取り除いて企業と当事者をもう一歩後押ししてあげれば、LGBTの方がさらに働きやすい世の中になるんじゃないかと。そこで、『ichoose』を今年の7月から本格的にスタートしました。こちらのサイトでは、独自の厳しい基準をくぐり抜けた企業情報だけを掲載をしていて、特に特徴的なのは応募のためのエントリーシート。一般的な記入項目のほかに、「もっと自分らしくはたらく」という項目を設けました。

 

——「もっと自分らしくはたらく」という項目には、どんなことを記入できるのでしょう?

 

まず、性別欄には男、女だけでなく、全部で8つの項目を設けています。もちろんカミングアウトしたくない人は「性別を申告したくない」という項目を選べるし、どちらの性別にも当てはまらないと思う人は、そのように申告できます。セクシュアリティの項目もあって、レズビアンやゲイ、バイセクシュアルなどを選択することができ、こちらも申告は自由。このように選択肢を広げているのには、申告して安心したいという方はすればいいし、申告しなくても大丈夫という方はしなくてもいいという風に窓口を広げることで、一人でも多くの方が前に踏み出せるようにという理由があります。

 

——実際に『ichoose』を利用された求職者や企業からの反応は、いかがですか?

 

運営が始まって3ヶ月ほどですが、多い企業では1社で3人の採用をしてくれていて、全体で見ても30%ほどの企業が既に採用に成功しています。当サイトは毎月4,000人が利用していますが、これは大手の求人サイトに比べると本当に少ない数です。それでも、自分らしく働きたいという思いの強い方たちが利用するサイトなので、本気度も違ってくる。企業にとってもLGBTの方にとっても、幸せなマッチングができているはずで、企業からも多くのお礼のメールをいただいています。また、求職者の方からは「家族と一緒に喜びました」といった声や「『ichoose』を利用しなかったら、こんな素敵な会社と出会えませんでした」といった声が届くことも。ビジネスとしてやっていく以上、企業へ価値を提供することは前提にありますが、それ以上にLGBTの人たちが自分らしくいられることが嬉しいし、メッセージを見た時にはうるっとしてしまいます。

 

——サービスを運営していく上で、苦労したことはありますか?

 

日本にはまだまだLGBTフレンドリーな企業は少なく、サービスの立ち上げ当初は特に、取り組みをしている企業の多くは外資系企業や国内有数の超有名企業に限られていました。正直なところ、そういった企業に入れる方はLGBTであることをオープンにしていても選べる立場にあると思うんです。でも、実はそういう選択肢がない人や地方にいる人ほど困っていました。そこで、これから取り組みを始めようと考えている企業にどうしてこういった取り組みが必要なのかを伝えていったんですが、決裁権を持っている方は年齢の高い方が多くてなかなか理解されず、わかってもらうまでに苦労することも多かったですね。

 

——星さんの今後のビジョンを教えてください。

 

私たちは、全てのLGBTが自分らしく働ける社会の創造という理念を掲げて、1年半以上活動を続けてきました。その中で感じたのは、LGBTの問題は当事者だけの問題ではないということです。解決するには、そもそも男性と女性の間にある仕事の役割分担や差別といったものを解消しなくてはいけないし、国籍や障がいの有無に関わらず働ける環境を作らないといけない。そこを解決していかない限り、本当の意味で一人ひとりの個性を尊重し合う世界を実現することはできません。最終的な目標は、全ての人が自分らしく働けて、誰もが輝ける世界を作ること。LGBTという言葉は過渡期の今、便宜的に使っているだけであって一種の記号でしかありません。いつかはLGBTという言葉自体がなくなり、誰もが自分の中にある多様性を認め、一つの個性として生きられる世の中へ。私たちは、そんな未来を目指していきたいと思っています。

 

——PAAKについてお聞きします。応募されるきっかけを教えてください。

 

以前、リクルートさんのインターンに参加していて、サービスの構想についてよく所長の麻生さんに話を聞いてもらっていたんです。当時から麻生さんは「これは解決しないといけない問題だから、やるべきだよ」と共感してくださって、厳しいフィードバックもよくもらっていて。その後に、麻生さんとたまたま会う機会があって声をかけてもらい、9期生に応募をしました。

 

——麻生(元・所長)を始め、PAAKのスタッフはどんな人だと感じますか?

 

PAAKのルールを破って会議の時間を延長したり、ゲストを規則以上に呼んでしまったりで、スタッフの方には度々怒られていました。でも、その度に事業を伸ばして恩返しするぞという気持ちで謝って、許してもらっていました。スタッフの方たちは怒ると怖いんですけど(笑)、みんな優しくて良い人ばかり。応援してくれている気持ちが伝わってくるので、すごく励みになりましたね。

 

——最後に、PAAKの良いところを教えてください。

 

おしゃれだし、設備も整っているので、基本的に営業をする時にはPAAKを使わせていただいていて、最近では「The New York Times」の取材でも使わせていただきました。それくらい、写真映えもするところも気に入っていますね。また、スタートアップ同士のコミュニティーがあるところも良いところだと思います。世間話をしながら気軽な感じで私たちのサイトを見てもらって、プロのデザイナーから「こうしたらいいんじゃない?」と簡単にアドバイスももらえてしまう。他にもメンターの方やVCの方、いろいろな方とつながることができて、PAAKでのコミュニティーは本当に得難いものでした。

 

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