VRを使って、 医療の現場を変えていきたい──HoloEyesインタビュー

HoloEyes
谷口 直嗣

IT・エンタメ業界のノウハウとVRを使って、医療の現場を変えていきたい。

谷口さんのこれまでの経歴を教えてください。

もともとは新卒で日本総研に入社して、クレジットカードのシステムなどを作っていました。でも、その仕事がおもしろくなかったんです。それで会社を辞めて、コマーシャルのCGカットを作るナブラというCGスタジオに入りました。20年ほど前のことなので、まだCGの制作費が高かった時代ですね。スタジオでは、学生時代に流体力学などを学んでいたこともあり、例えば煙の動きがどうなるのか?や空気の流れがどうなるのか?など、映像を作る上で必要とされるシミュレーション計算などをしていました。

それから動物番長というゲームのプロジェクトに誘われてフリーランスになりました。

その後起業されたとのことですが、フリーランス時代にはどのようなことをやってらっしゃったんですか?

ロボットアームを使って机の上に置かれたキューブを1回ずつ動かし、それをロボットアーム付きのカメラで撮影するというコマ撮りアニメを制作したことがあります。これは、CADを扱うオートデスクという会社から「CGソフトの新しい可能性を見せたい」というお話が来て、リアルな世界もオーサリングできるということを証明するために、企画段階から携わったものですね。最近作ったもので言うと、4月から放送している『正解するカド』というSFアニメの制作にも関わっています。アニメの背景に出てくるフラクタル模様などを作っているのですが、これまでは1枚の画像を制作するのに3時間ほどかかっていました。それが、今回ユニティというゲームエンジンを使うことによって、1枚の画像を1秒かからずに製作できるようになったんです。

谷口さんが開発されているプロダクト『HoloEyes VR』について、教えてください。

『HoloEyes VR』は、VRやMRを使った医療向けのサービスです。医療の世界で広く使われているCTスキャンの画像は、もともと3Dだった人間の体を2Dの画像に変えているもの。今までは、それを医師が頭の中で自ら3Dに再構築していました。でも、それはかなり大変だということで、我々はVRなどを使って体のデータを3Dにし、体の中の地図を作って、それを見ることができるサービスを開発しています。単に映像が見られるだけではなく、医者がどこを見たのか、などカメラの位置や動きなども記録できます。そうすることで、3次元的に記録をして3次元的に再生できるようになり、VRを使って奥行きのある体のデータを見ることができるようになります。例えば肝臓の映像の場合、まるで肝臓の中に頭を突っ込んでいるような、そんな体験をすることができるんです。

そもそも『HoloEyes VR』を開発するきっかけは、何だったのでしょうか?

3年ほど前に、手術支援ロボット『ダヴィンチ』を体験したことが、『HoloEyes VR』を開発するきっかけです。『ダヴィンチ』は、ロボットアームが人の身体の中に入り込み、それを医者が操作して手術を行うというものです。実際に体験してみると、人の体の中が立体的に見えてすごく操作がしやすかった。当時、VRのアプリを作っていたんですが、『ダヴィンチ』とVRに共通性を感じて、VRアプリでこれを再現することができないだろうかと考えたんです。『ダヴィンチ』は1台3億円ほどしますが、VRのヘッドセットなら10万円以下で買うことができます。VRを使えば、3億円投入してできるサービスが10万円以下で実現できるかもしれない。そう思って、『HoloEyes VR』の開発をスタートしました。

それまでは、医療の分野には関わられていなかったということでしょうか?

はい、そうですね。むしろ、医療という責任の重い分野に自分が関わるようになるとは、全く考えていませんでした。それまでは、どちらかというとゲームやCGの作品を作ったりとエンタメ寄りの仕事をしていたので…。でも、エンタメに関わってきた人間だからこそ、医療の分野でできることがあると考えています。例えばゲームアプリの開発をしていく場合、エンジニアはUIにもすごくこだわりますよね。少しでもユーザーが操作しづらいと感じてしまったら、すぐにゲームから離脱してしまうから。それに対して、医療のアプリはあんまりイケていないものが多いと感じていて。そこに、ゲームやWebのデザインやUIを取り入れていくことで、もっとかっこよく、もっと使いやすいサービスになるのではと思っています。

これまで医療に携わってこなかった谷口さんが『Holo Eyes VR』を開発する上で、大切にしている考えやポリシーはありますか?

ITの業界では常識だったことも、医療の世界ではクローズドになっているということがたくさんあります。例えば、ITの業界に関わらずGmailなどのクラウド上のメールサービスを誰もが使うようになりましたが、医療の業界ではそうはいかず、病院のサーバー上で全て完結しているところがほとんどです。個人情報を外に出したくないという理由ではあるとは思うんですが、それはただの習慣だと思うんです。そういうところをうまくITの目線で変えていって、どのようによくしていけるのか、そんなことを考えながら開発を行っています。VRのいいところは、体験や経験をデジタル化できるところ。VRのよさを最大限に生かして、医療の現場を変えていきたい。その時に絶対に忘れずにいたいのは、患者さんが一番だということ。医師の助けになるようなサービスを提供して、最終的には患者さんの利益になればと思っています。

医療の現場で『HoloEyes VR』は、どのように使われることを想定されていますか?

医療の現場では、手術をする前に執刀医、補助をする医師、アドバイスをするベテランの医師、看護師、臨床技師など…関わる人たちが集まって手術について検討するカンファレンスという会を行います。例えば、ある患者さんの肝臓の手術をするとしますね。実は肝臓の中には血管が複雑に走っていて、その一つ一つの血管は太く、切ってしまうと大変な事態になりかねない。そういう時に、『HoloEyes VR』を使って血管の三次元構造を手術に携わる全員が知っておけば、そのリスクは低くなります。特に癌の場合には、腫瘍の部分だけを取り除けばいいというわけではなく、飛び散るのを防ぐためにまわりの健康な部分も一緒に取り除かなければいけないんです。そういう時、『HoloEyes VR』で臓器の作りや血管の位置を三次元的に見られるということは、画期的なのではないかと考えています。

『HoloEyes VR』は、現役の医師以外にどんなところにニーズがあると考えられていますか?

現役の医師による手術の際の活用はもちろんのこと、学会で発表するという時にも活用できると思います。また、将来医師を目指す医学生にもニーズがあると考えています。紙の教科書を見ても、文字がたくさん並んでいて、そこに少し画像があるだけでは実際の現場のことは学べないですよね。それが『HoloEyes VR』を使えば、学生のうちからさまざまな患者さんの症例を3次元的な映像で見て勉強することができるので、飲み込みのスピードも全く違ってくると考えています。それから、医療機器メーカーが自分たちの製品を説明するのに『HoloEyes VR』を使っていただけるのではないかと思っています。現在も、いくつかの医療機器メーカーからご相談を受けていて、ショールームにヘッドセットを置くことを検討しています。

先ほども教育現場などで活用できるというお話をしていただきましたが、今後の『HoloEyes VR』の展望について改めて教えてください。

教育機関に向けて、なるべく安価にサンプル教材を提供していきたいと考えています。将来的には、医学生はVRで医学を学ぶ世界を作りたいですね。そうして、VRで学んだ学生たちが医師になって病院に勤め始めた時、「この病院には、VRはないんですか?」という話になりますよね。そこで、病院にも『HoloEyes VR』を導入していってもらい、医師が学会で『HoloEyes VR』を使って発表するようになっていく。そうすると、さらに他の病院の医師が「これはいいね」ということになって、『HoloEyes VR』を導入してくれる。そんな世界になれば、データのアーカイブが溜まっていき、結果的に多くの患者さんの助けになるのではないでしょうか。

TECH LAB PAAKについてお聞きします。谷口さんにとって、TECH LAB PAAKはどんな場所ですか?

アットホームで、学校のような場所ですね。同じ6期生の中にはファッション業界でVRを使ったプロダクトを提供するPsychic VR Labさんや、VRとロボット技術を組み合わせて遠隔操作を行うプロダクトを開発するMacroSpace Inc.さんなどがいらっしゃるんですが、今でも展示会やイベントでお会いすることが多く、その時には同級生に会った時のような気持ちになります。

TECH LAB PAAKのいいところを教えてください。

渋谷という便利な場所にあるので、活動の拠点として仕事がしやすいところでしょうか。7階はいつも静かなので、開発するのにもうってつけの場所だと思いますね。後は、いろんな人にプロダクトを見てもらえるところも、いいところの一つです。

最後に、『HoloEyes VR』に興味を持ってくださっている方にメッセージをお願いします。

まずは、実際に体験してみてほしいですね。それから、一緒にプロダクトを進めていく仲間も募集しているので、興味のある方はぜひ声をかけてください!VRやMRの開発をしたい人、ディープラーニングをやりたい人、サーバーサイドを作りたい人など、ブロックチェーンなど最新の技術を結集させて開発していくプロダクトなので、少しでも興味がある方は、声をかけていただければと思っています。

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