ヴァーチャルに靴の試着ができる『Flickfit』で履き心地の良い靴を買う時代に ── 廣橋博仁さんインタビュー

CEO 廣橋博仁さん
株式会社Flickfit

ネット通販で靴のヴァーチャル試着ができるサービス『Flickfit』

まずは廣橋博仁さんのプロフィールを教えてください。

元々僕は3Dプリンティングの会社を経営していたのですが、そのときに、3Dプリンタで出力する前の3Dデータや3Dスキャナにも非常に興味を持ちました。データをただ3Dプリントするだけじゃなく、そのデータそのもので何かできないかな?と模索していた時期でしたね。

それから僕自身がいろいろと構想を練っていく中で、世の中にある何かと、スキャンしたデータを仮想的に試着させるという考えに行き着き、最初は3Dスキャンをしたボディデータに興味をもちました。しかしボディ全体をスキャンしてデータ化するのは体験的に難しいということがわかり、足のスキャンにたどり着きました。足であれば気軽にスキャンしてデータが集まりやすく、そもそも靴の履き心地や靴ずれ等に悩むユーザーが多いこともわかり、靴のヴァーチャル試着を目指すことにしました。

それで1年半ぐらい前から千葉大学さんと、靴の中身のデータと足のデータをマッチングさせるアルゴリズムの共同研究をし始めたんですね。そして1年前に、エンジニアの野村がジョインするタイミングで法人化し、株式会社Flickfitを設立しました。

ちなみに3Dプリンティングから、なぜボディデータに興味をお持ちになったんでしょうか? また会社を設立するまでの経緯を教えていただけますか?

すでに3Dプリンティングをしていたときに、人のフィギュアを作るためにボディスキャンをしていたんですよ。ですのでさんざん人の3Dデータを見る機会が多かったんですが、そちらにも興味がわいていたのと、それとプリンティングするよりもデータを使って何かをするほうがビジネスとしてのスケールがわかりやすかったので、データを使ったビジネスをしてみたいという考えになって変わっていったんだと思います。

あとそうですね、産業技術総合研究所(以下産総研)の持丸正明先生という人間工学の専門家の方がいらして、人体のデータを使っていろいろサービスを考えることを研究されていて、その先生の講義を聴いて、確かにそういうサービスの可能性はあるなぁということを感じていました。

また一方でeコマースにも興味があったんですが、今後eコマースが大きくなるという必然的な流れのマーケットの中で、物の売り方についてもいろいろと考えるところがありました。

そういったサービスの中でも人体のデータが重要になっていくということですね。

はい。人体のデータを先に持っておいて、自分のデータを買い物の際に役立てるという世界があると思ったんですね。身長や体重を健康診断等で測るように、3Dスキャナや測れる場所を用意してあげて誰でも簡単に計測できるようにすれば、もっといろいろと自分のパーツデータを測る機会も増えるんじゃないかなと思っています。計測したデータをユーザーが持っていれば、商品を購入する際にデータを照らし合わせることができ、より自分に合った物が購入できるのではないかと。特にそれはeコマースでは有効なのではないかと考えていたんですが、先ほどの産総研の持丸先生の講義を聴き、同じような考えの方に出会って、少しずつ確信に変わりました。

それはマネタイズをする上でも、足と靴がベストだということでしょうか?

いえ、マネタイズというよりは、さんざん人のボディスキャンをしてきてわかったのが、人って、ボディのスキャンはあまりやりたがらないという一面もあって、全身のスキャンというのは障壁があると感じていました。それが足だったらデータ化しやすいというか、もっと自分の足について知りたいという人が潜在的に多く、自分の足に合う靴を選びたいという人がかなりいらっしゃるんですね。足の形だとか外反母趾というような健康領域にも広がりそうな可能性があるなと思い、そこにたどり着きました。

今、僕らはまず女性にフォーカスしているんですが、現在の靴のサイズって自分の足のサイズに合わせて、23.5センチとか、22センチというような靴の選び方をしていますが、靴の採寸表示のあり方って結構あいまいだなぁと思ってます。あいまいでも靴を選ぶことはできますが、靴ってデザインと履き心地を同時に考えて選びますよね。店頭で買ったとしても、かわいい靴を買ってみたけど履いてみたら足が痛くてつらいというようなことがよくあります。スニーカーのような靴ならばある程度我慢できると思いますが、女性のパンプスは大変です。ですので、まずは女性のパンプスから始めて、そのあとに子供の靴、運動靴のような領域に入っていこうと思っています。

そこでヴァーチャルな試着にたどり着くわけですね。

はい。これまでの靴の買い方は、まずはデザインを見て、それから値段を見て、ここでやっと買ってもいいかなぁと思いつつ、そして自分の足に合うかどうか試着して決めるという流れだと思いますが、僕らの言う試着は、購入目前のギリギリの試着ではなくて、試着情報をマーケティングとして使うことを考えています。

例えば百貨店では、これまでのように1足、1足試着していくのではなくて、店内にある靴全部、千足なら千足、2千足なら2千足と一瞬で仮想試着できて、自分の足に合う靴がわかるわけですよ。そこから、例えば上位の10足をお客さんにレコメンドするような売り方ができるわけですね。もちろん最終的には店頭で本物の靴を試着するということもできますし、あらかじめ自分の足に合った靴の中から選べるというのは安心感にもつながりますよね。

また靴のデータがそろってくると、ネット上でも、店頭でも、たとえば靴の横にQRコードか何かが載っていて、それをユーザーがピッと読み込むだけで自分に合うかどうかがわかるという逆の流れも作れますよね。店員さんを呼ぶ前に、靴のフィット感があらかじめわかるというメリットも出てきます。

つまり履き心地をこれまでの最後の意思決定にするんじゃなくて、もっと前のほうに履き心地という選択肢を持ってくるというフローで靴が選べ、買う側も買いやすいし、売る側もこの靴はあのお客さんの足に合うのでレコメンドできるというように、靴の売買の幅が広がりますよね。

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実際に『Flickfit』はどういったところでサービスを提供していくのでしょうか?

とにかく靴をもっと選びやすい、買いやすいものにしたいですね。『Flickfit』の精度が高まれば、自分じゃないとわからない部分をもっと他人でもわかるというか、代理試着のようなことができるようになると思っています。百貨店の外商さんがお客様の足のデータを持ってお客様の足に合う靴を探しに営業に行くようなことも考えられますし、女友達の誕生日にみんなと割り勘で靴をプレゼントするようなこともヴァーチャル試着で代理試着ができれば、その子の足に合った靴をプレゼントすることができるようになります。

靴はサイズだけではなく、履き心地も大切であるからこそ、これまでは人の靴を代わりに選ぶということは、できなかったというか、あまりやりたいと思えませんでしたよね。そういうことができるようになるとギフトの世界にも靴の購買意欲が広がって、靴自体がもっと売れるようになると思っています。

ですので、僕らがシューフィッターさんの代わりになるとか、ECで靴を売りたいとかそういったことの課題解決ではなく、Flickfitでもっと靴が選びやすい、買いやすい市場にしていきたいと思っています。

まずは簡単に足を計測できるスキャナを開発して、それを店頭に置いて計測できるようにしているんですが、それらをツール化してより多くのお店に提供していきたいと考えています。また僕らは今、お客様が自分でもスマートフォンで計測できるようなアプリを開発中です。よりたくさんの方が気軽に計測できるような世界を築き上げていきたいですね。そこから生まれてくるデータをデータベース化することで、さらにつながりができ、僕らもお客様も、そしてお店もWin-Winでマッチングできると思っています。

具体的にはどのような方法でデータを作っていくのか、企業秘密以外の問題のない範囲で教えていただけますか?

実際には、もう足の計測用のスキャナはあります。これに乗っかると、3秒ほどで足のデータが計測できます。今は百貨店さんメインに置いているんですが、これを日本国内に1,000カ所、世界に20,000ヶ所置きたいですね。データ化された足は、いつでも自分のスマートフォンアプリで見ることができます。測り方はこれ以外にも、先ほど言いました自分で測れるスマホ用スキャナアプリを開発中です。アプリができれば自宅でも計測できるようになるので、より利用しやすくなりますね。これが足の計測に関するお話です。

もう一方の靴に関しては、すべてはお教えできないんですが、靴については、既存の靴から特殊な方法で計測し、データ化しています。これは特許の取得をしているので、今はくわしくは説明できないんですが、弊社としてはこちらの技術もコアなんです。靴の内側を測る会社はまだ世界で誰もやっていません。

この2つのデータを重ね合わせて、ヒートマップで、靴のフィット感を現しています。たとえば赤くなっているところは靴と足が当たりすぎている、ということがわかるようになっています。

もっと具体的に言いますと、店頭に3DスキャナとiPadが置いてあって、店員さんに自身のメールアドレスを告げることで、自分のデータがスマホで見られるという仕組みです。これらのデータを人に見せたり、あるいはマイページで自分の試着した履歴が見られるといったことができるようになります。

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では『Flickfit』を開発していく上で、苦労された点、あるいは難しい点を教えていただけますでしょうか。

やはり様々な靴のデータ化が一番難しいですね。僕らも世の中の靴すべてを測れているわけではないんですよね。パンプスはだいたい測れていますが、たとえばブーツが測れなかったりとか、そういう難しさがあります。測る方法がこれまでにあったわけではないので、そこは発明しなければならないというのが苦労の点です。

靴のデザイナーや靴を作ってる職人さんは、今回のように計測されることを前提にして靴を作っているわけではないので、僕らはそれに追いついていかないとならないんですよね。ですので、こういう靴ならこうやって測ろう、これならこうして測ろうというようにいろんな計測方法を持っていなければならないと思っています。そこがFlickfitが常に研究し続ける点です。またこれを運用上でスピーディにできなければならないですよね。そのあたりも課題だと思います。

ただ、こういう地味なことをやるからこそ僕らに強みが出てくると考えています。それこそ乱暴な言い方をすれば足のスキャナなんて他社のものでもいいんです。測れればいいわけですから。ですがマッチングさせる靴のデータをどう用意するか、計測して集めたデータをどう処理するか、そこが他社にできないポイントだと思いますので、これはしっかりとやっていきます。

それと最大の課題といいますか、もっと大事な部分で、今後は、しっかりと足を計測して靴を買うという文化を作っていかなければならないと思っています。僕らは靴屋さんになる訳じゃないので、靴屋さんにも計測をする意味、計測方法を理解してもらわないとならないし、お客様にも計測して靴を買う意味をわかってもらうという、同時進行で啓蒙活動していく必要があると感じています。

それができて初めて、自分の足をスキャンして3Dデータを作るということをやってもらえる世界になると思っていますので、やはりここが最大の課題です。

では、『Flickfit』の今後についてもお話しできる範囲で教えていただけますか?

ひとつは靴のデータベースをAPI化して、みなさんに利用していただけるサービスなども考えられますよね。たとえばオークションサイトだとか、個人が物を売るようなサービスで靴を売るときに、『Flickfit』の靴のデータを利用したりとか、2次流通の売買がしやすくなるような情報が提供できるプラットフォームとしても考えられますね。

また子供の足の成長って早すぎて、お母さんも理解できていないことが多々あります。ちなみに他社の調査データによると子供の3分の1は合っていない靴を履いているという集計結果があるそうです。それを『Flickfit』で簡単に計測できれば、よりお子さんに合った靴を履かせることができます。たとえば子供のシューズボックスのようなアプリがあって、自分の家にある靴のデータが登録されていて、そろそろ子供の足を計測する時期ですといったアラートがアプリから鳴って、実際に測ってみたら、今ある2足の靴はもう合っていないといったこともわかってしまうという感じでしょうか。それにECを足せばすぐに靴が買えるサービスにつながったりとか、そんなことが将来は考えられます。

これらのサービスをすべて僕らが提供するというよりは、僕らのデータベース上にいろいろなアプリやサービスが乗ってくれるとうれしいですね。そういうデータベースプラットフォームという立場でも僕らはかまいません。

TECH LAB PAAKに参加された、その印象についてもお聞かせいただけますでしょうか。

とにかく助かっています。業務上、技術的なことで助かっているというよりもメンタルの部分でしょうか。
ここに来ると、僕らと同じ立場のスタートアップの起業家さんがたくさんいらっしゃるので、業種ややっていることがぜんぜん別でも、直面する問題点が同じというか、共感できるお話がいろいろとあって、そんなことがみなさんと話をしていて参考になります。またみなさんが頑張っている姿を見ると、それもいい刺激になりますね。僕らは別にオフィスもあるんですが、やはりときどきここに寄らせていただいたりしていました。

最後に『Flickfit』を使ってくれる将来のユーザーさんにひと言お願いします。

世の中の靴を全部測っておくようにします。それとみなさんの足を測るような環境をたくさん作りますので、ぜひみなさんも靴のお求めの前にご自身の足のサイズをしっかりと測る文化を創ることにご協力ください。
よろしくお願いします!!

ありがとうございます。

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