『手書き風手紙作成代行サービス』──HERO Consultingインタビュー

HERO Consulting
佐藤 博

AIとロボットを活用したフルデジタルなサービスで、もう一度アナログなコミュニケーションの輪を。

佐藤さんのこれまでの経歴について、教えてください。

私は富士ゼロックスで主に現在のIT分野の新規事業の企画と立ち上げに携わってきました。最初は研究職として入社したのですが、すぐに企画に移りシリコンバレーの技術を使った新規事業の立ち上げに取り組むことになったわけです。例をあげれば、’80年代半ばに「人工知能の事業化」を’90年代は「米国への進出」といったそれなりの規模感のある新規事業を15件ほど立ち上げたかと思います。ただ、そうした案件のほとんどは結果的には失敗というか消滅してるんですね。原因を振り返ってみると、自分らが正しいという思い込みでお客が本当に欲しがるものを出していなかったし、本業の収益率がとても高いから、会社全体は新しいことに真剣に取り組もうというモチベーションが起きなかったんですね。新規事業がなんとかスタートできたとしても、複写機を売るためのおまけの様な位置づけとしてしか扱われない。そういう本質的問題が解決できず、失敗が続いて…。2000年くらいの時、社長交代があり新しいブランディングを確立しようというタイミングに出会いました。その時、IT文化を持たれた副社長が外部から招聘され、新事業の立ち上げをされたいと伺いました。そこで、自分自身を売り込みに行きました、というのはこれまでの失敗を踏まえて今度は成功する新規事業を作りたいと思ったので。これまで立ち上げがうまくいかなかった失敗の原因である「お客が本当に欲している物を提供していない」という課題を今回こそは解決したいと考えたわけです。そこで「この会社の常識というかカルチャーを変えない限り事業は立ち上がらないので、社内の常識や既存の稟議規程などのルールにとらわれない進め方をさせてほしい」と宣言しました。当初の事業化検討のプロセスでは、一旦は社内のプロジェクトを編成して議論を試みたものの、当然ダメなカルチャーのままであり私が意図したビジネスモデルを生み出せないと判断し解散せざるを得ませんでした。結果、外部のコンサルを入れることで社内に「非常識」を持ち込み、社内では議論できなかった顧客価値をはっきりさせて複写機事業を超える事業性のあるビジネスモデルをデザインすることができました。事業化活動そのものは実働部隊に引き渡しましたが、コアになるビジネスモデルは壊しようがない様に作り込んだので、その事業は当初の構想からは縮んでしまったものの、今も200億円くらいの規模で残っています。その時に検証できたのは、お客さんの欲しがっているものを見つけることができれば、新規事業は誰にでもできるんだということ。でも、このお客さんの欲しがっているものを見つけることが一番難しいんですけどね、実際に失敗したのは技術が良いとか内部事情で作らざるを得なかった事業で、逆に成功できたのはお客さんが理解できて具体的困りごとを解決できるものを作ったんだと気付けたんです。そのほか、どこで失敗するのか、事業を作ることの本質とは何かを学ぶことができたので、そうしたチャレンジを許してくださった故小林会長には感謝していますし、富士ゼロックスでのサラリーマン時代のことが現在の礎になったと思っています。

富士ゼロックスを退職されて、その後はどうされたのでしょうか?

一時、無線LAN機器ベンチャーの社長をしたり、サンフランシスコの検索エンジンのベンチャーに日本から参画したりしたのち、個人事業主として、大手メーカーを中心としたクライアントが新規事業を立ち上げる際のメンタリングというか…もう少し中に入って一緒に具体的事業の中身を作るという仕事を、やっています。でも、人の手助けばかりやっていてはおもしろくない、と。だったら、自分で何か事業をやろうと思い、TECH LAB PAAKに参加することができたので、今開発中の『手書き風手紙作成代行サービス』の開発をスタートしたんです。

それでは、開発中のプロダクト『手書き風手紙作成代行サービス』とはどんなものなのかを教えてください。

営業の仕事をされている方だと、お客様あてに一生懸命手紙を書かれて、それツールに商談をまとめられているという世界があります。でも、これではとにかく書くだけでも非常に時間がかかるし、ハガキなど文具を用意するもの面倒だと。さらに、若い方々は実際の筆記具でまとまった文章を書くという練習もなく、とても困られているんですね。『手書き風手紙作成代行サービス』は、文章をシステムに入力すればハガキや便箋にロボットが自動で文章を書いてくれて、書くための時間や文具を用意する手間を省いてくれるというサービスになっています。メカとしてはXYアーム型のロボットが実際の万年筆を持って一画ずつ書いていきますし、通常使われている文章は何でも書けます。今使っている楷書体の字体の筆順はちゃんと文科省の標準に合わせてあるんですよ。

『手書き風手紙作成代行サービス』を実際に試された方からは、どんな反応がありましたか?

未だ本格利用にまで至っていないのですが、どなたからも「これすごくいい、ぜひ欲しい」とおっしゃってくださっています。実は開発を始めた当初は、楷書体の文字しか想定していなかったんです。それを色々な方々に試してもらったら、「きちんとした楷書体じゃなくて、人手で書いた様なもっと下手な字が欲しい」という声をいただいて。それで今はあえて手書きの様な字が書ける技術開発を進めており、アルファベットを描ける機能まで、開発が進みました。なので、例えばアルファベットの「n」がいくつか文章中に出てきたとすると、出てくるたびに文字の形状に揺らぎがあるんです。実際に人間が同じ文字を書いていても書くたびに文字の形が微妙に変わりますよね。それを、AI技術が自動で生成して文字を調整してくれるんです。引き続き技術開発を進めて漢字仮名交じり文の全てが手書き風に、あえて言えば個性的に、書けるシステムにしたいと考えています。

そもそも『手書き風手紙作成代行サービス』を開発するきっかけは何だったのでしょう?

きっかけは、ある生命保険の営業の方の愚痴でした。すごく業績がいいので「どうしてそんなに業績がいいの?」と聞いたら、ハガキを出すだけだと言うんです。それで、どんなタイミングでどんなハガキを送るのかと突っ込んで聞いてみたんです。そうしたら、初回に面談した時に出会いに感謝というハガキを1通。見積もりを出す前に心の準備をさせるハガキを1通。そして、あともう1通。出すタイミングを上手に選ぶと、3通でだいたい商談は決まると言うんです。それで、商談が決まった後に必ずもう1通、感謝の気持ちを綴った手紙を送ると。ハガキを4通出すと1商談。つまり、書いたハガキの枚数を見れば業績の見通しが立つ。それを聞いて「それはすごいことだね」と言ったら、初めて彼の口から「100〜120通ぐらい書くのに3日間ぐらい家にこもって手紙書きばかりになるんだ。やってられないよ」という愚痴が出てきたんです。それで私は、「来た!」と思いましたね。「新規事業を始めるなら、愚痴から始めろ」というくらい、実は愚痴は大切なものなんです。

生命保険の営業の方以外に、どのようなニーズが考えられますか?

比較的値が張るサービス的な商材を売っている方たちは、みなさんなんらかの手紙を書いています。例えば証券会社、美容院、旅行代理店とか。モノを売っているところは商品が良ければ売れることが多い。でも、証券や生命保険というものは実はどこで買ったとしても同じなので、営業の方がどれだけ自分を本当に気遣ってくれるのか、そのパーソナルタッチという信頼感によって業績が決まってしまうのですね。その外だともう少しCRMの要素が入ってきて、美容院だと次のカットのちょうど良いタイミングをお知らせする、旅行だとまさに個人別に去年の旅程から今年は何が良いかの提案をするとかになりますね。なので、そういった業界にももっと多様なニーズがあると考えていますし、それ以外にも意外な業界にニーズがありました。ブライダル業界の話なんですが、結婚式に手書きの招待状を出される方は多いですよね。女性向けのECサイトを運営するS会さんに話を聞いたら、「50枚や100枚くらいなら筆耕の方に頼めばなんとか予定通りいく。でも、枚数が多くなってくると、例えば300枚になると危ないんです」と。何が危ないのかというと、筆耕の方は高齢者が多いので「体調が悪くて100枚以上書けなかった」と、ドタキャンされてしまうことがあるらしいんです。後は、書き損じがとにかく多いそうです。そのS会さんによると、だいたい25%書き損じがあるらしくて、高級な紙がかなりの割合で無駄になってしまう。なので、「書き損じがなくて、納期通りに仕上げられるなら今すぐ切り替えられる」とおっしゃっていました。
それから、ベビー用品やお花などのギフトショップでの活用もありそうです。遠方の方にお花を贈るときを例にすると、お客様が自分に便利なお花屋さんで商品を選び送り先への伝票を書いてもらうと、その伝票はFAXで贈り先の住所に近いところにある別のお花屋さんに伝送します。その後、そのFAXを受けたお花屋さんが注文をアレンジをして贈り先に届けます。つまり、お花を買ったお店と実際のお花をアレンジして宛先に届けるお店は別々であり、その間はFAXでしか繋がっていないんですね。だから、お花を購入するお花屋さんにグリーティングカードを届けてもらいたいとお願いしてもできないんです。
だからカードだけこのサービスで宛先に直接送ってもらえれば、商品とは届く時間は違うかもしれませんが両方を届けられるので送り主は嬉しいとのことでした。いろいろな方と話をすることで、僕には思い付きもしなかった活用法に出会うことができるんですよ。

今後、新しい機能を追加する予定はありますか?

もう少し、遊び心も取り入れたいなと考えています。今は依頼が来たら、ロボットが代筆し、郵便ポストに投函するというところまでを行なおうとしているんですが、手紙の文案自体もテンプレートとして各種を用意してあげようと考えています。また、みなさん口々にアクセントになる「イラストとか写真が欲しい」とおっしゃいますね。今、イラストレーターの方等とお話ししているのは、イラストレーターの作品が使われる度にお金をもらえる仕組みについてです。『手書き風手紙作成代行サービス』は、一種のコンテンツマーケットとしてその上でイラストレータや写真家の方がご自分の作品を売買できる様な展開もできるんじゃないかとも考えているんです。もちろん、ハガキや便箋もレパートリーを増やし、季節やイベントに応じたノベルティーレターも考えていきたいと思っています。
ゆくゆくは、誰にどんな手紙を出したのかログを録って管理できるシステムを提供すれば、内容が重複しない様に管理できるし、あるいは商談の成功率とどんな文章が効果的かの関係がわかったりしそうですし…、手紙をスマホで写せば、AIが自動的に返信してくれる、そんなサービスも喜ばれるかもですね。今の最先端のAI技術、特にGANという技術がもう少し実用化すると手紙の文章そのものをコンピュータが自動で書いてくれる様になるんじゃないか、そんなところまで実現できるといいですね。

アナログなサービスに見えて、実はフルデジタルなプロダクトなんですね。手紙を受け取る方は、AIとロボットを使って書かれたことを知らないという前提でよろしいでしょうか?

受け取る方は、知りません。でも、東京芸大の先生がおもしろいことを言っていました。「手紙の下の方に、“この手紙はロボットが書いています”と書きなさい」と。そうすると、受け取った方は「えっ!ロボットって、こんなことができるの?」とサプライズ感を感じてくれる。受け取った方から見れば、相手はわざわざ手紙を書いてくれて、さらにロボットというトレンド感のあるもので驚きをプレゼントしてくれたーーーそこが、この『手書き風手紙作成代行サービス』の価値なんだと。Pepperが喋り、変なホテルが人気だったり、ロボットレストランが登場したり、デジタルなのにこれまでにないアナログなコミュニケーションが始まったと思っています。

『手書き風手紙作成代行サービス』の今後の展望について、教えてください。

僕はこれまでITのど真ん中でビジネスをやってきました。でも、本当はITの冷たさが嫌い。アナログの持つ温もりが大好きなんです。今、世の中は手で文章を書ける人が減っています。若い人のLINEのやり取りを見ると、単語やスタンプが並んでいて、まとまった文章がない。これは、やばい。失礼ながらこれほどまでに文章能力が落ちているんだと。『手書き風手紙作成代行サービス』が解決策になるとは思っていませんが、手で書いた文章や手で書いたプレゼン資料が持っている良さ。そういうアナログの良さみたいなものがあるということを、もう一度みなさんに思い出してほしいなと思っています。

ここからは、TECH LAB PAAKについてお聞きします。TECH LAB PAAKの良さは、どんなところにあると思いますか?

一番の価値は自分の知らない世界について知っている人と、出会えるところじゃないですか。大企業は今、ほとんどが苦しくなってきていますが、そういうところはオープンイノベーションとか言ってはいますが、実はみんな企業の中で閉じていて、外部というか特に異なるカルチャーとの偶然の出会いというものを求めないんですね。だから、イノベーションや新しい発想が湧かなくなってしまう。社内の取り組みを通じて偶然の出会いを作り出しているところは、シリコンバレーの企業くらいではないでしょうか。TECH LAB PAAKはそういった偶然の出会いみたいなものを提供してくれた上で、しかも場所も飲み物や食べ物はタダ。これは、本当にすごいことだと思います。

実際に偶然の出会いを通じて、刺激を受けたことはありますか?

入居者ってかなり突飛な発想を持たれた方が多いんですね。まずそれだけでもものすごい刺激になります。私の具体的なエピソードを公開してしまうのは難しいですが、他のチームの方のプロジェクトの着眼点を見せてもらったり、他の方にコードを書くのを手伝ってもらったり…。そういうことが、自然とできることのすごさというか、それぞれ別個のプロジェクトなのですが、何か皆んなで大きな一つのプロジェクトをやっているんじゃないかと思う様な雰囲気がすごいです。これは、TECH LAB PAAKならではだと思います。実は僕、TiE(*)というスタートアップの立ち上げ支援のためのグローバルな組織で、日本支部の理事みたいなことをやっていて。TECH LAB PAAKはどちらかというと、これから資金調達を目指そうとしているアーリーステージのスタートアップの支援が中心なんですよね。その後にグローバルなプロダクトとして世界へ出て行く時のためのサポートを、TiEができるんじゃないかと。スタートアップの方たちの世界への進出をサポートができたらと、考えているところです。
(*)TiEについてはtie.orgをご参照ください

最後に、『手書き風手紙作成代行サービス』に興味を持ってくださっている方にメッセージをどうぞ。

これは、一種の共感価値なんです。相手が自分のことを思ってくれて、その思いが手紙に載って届く。その手紙を受けたことによって、気持ちを返してあげられる。そういうコミュニケーションの在り方というものを復活させたい。ハートトゥハートのコミュニケーションを広げていきたいですね。

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