『次世代シーケンサーを用いた個人ゲノム解析に基づく疾患リスク判定』

遺伝子解析で病気を予防し、救える命を救いたい。

 

——曽根原さんのこれまでの経歴を教えてください。

生物学など理系の勉強に力を入れる筑波大学附属駒場中高等学校に進学して、当時からDNAを分析したり、遺伝子組み換えをしたりという実験を通して、生物学の面白さを感じていました。その時の経験が原点となっていて、卒業後は筑波大学で本格的にバイオテクノロジーを学び、その後に東京大学大学院へと進学して、受精卵の遺伝子解析などの研究をしていました。そのまま研究者一本で進んでいこうと考えていたのですが、転機が訪れたのはiPS細胞の論文が発表された時。やっぱりこれからは、医学が面白くなりそうだと。それで、千葉大学の医学部に編入というかたちで入学して医師免許を取得しました。今は千葉大学医学部病院で産婦人科医をしていて、患者さんを診ながら、生殖医療の研究や遺伝子解析の研究も行っています。

 

——ゲノムクリニックを立ち上げたきっかけは、何だったのでしょうか?

論文を書くだけではなく世の中に実装できる研究を後押してくれる、文部科学省の博士課程教育リーディングプログラムというものがあって、EUや米国のバイオ企業や研究所を見学しました。また経産省のご支援でシリコンバレーにも行かせていただきました。その時に一番衝撃的だったのが、Facebookのオフィス。彼らはすごく大きな研究所を作っているのですが、そこで人工知能の研究を行っていて。その時に初めて、ベンチャービジネスでも研究につなげることができるのだと思い、僕も何かやりたいと思うようになりました。そうして立ち上げたのが、ゲノムクリニックです。

 

——曽根原さんは現在の研究を、どのような思いでされているのでしょうか?

今、遺伝子解析の分野はとても盛り上がっています。何がすごいのかというと、次世代シーケンサーという機械が数年前から普及してきたことで、それまでの従来型の機械では一人の人が持つ遺伝子情報であるゲノムを解読するのに10億円から100億円かかっていたのが、10万円まで下がったのです。あらゆる領域の中で、一番価格破壊が起こったのがこの遺伝子解析の領域だといわれています。僕は、その遺伝子解析の技術を医師として、きちんとした一つの医療として提供したい。そんな思いで研究をしてきました。

 

——改めて『次世代シーケンサーを用いた個人ゲノム解析に基づく疾患リスク判定』というものが、どんな研究なのかを教えてください。

あらゆる病気は、二つの要因で起こります。一つ目は、タバコを吸ったり事故にあったりといった環境要因。二つ目は、親から引き継いで生まれた時から持っている遺伝的要因。病気は、その二つのバランスで成り立ちます。その中でも特に遺伝的要因が強い病気があって、逆に言えばその遺伝子情報を解析することで、遺伝的要因の強い病気の発症を予測できる。未来を予測できるのです。また、そういった遺伝的要因の強い病気の中には治療法がある病気もあります。それならば、遺伝子情報を解析することできちんと病気のリスクを知り、予防しようというのがゲノムクリニックの研究です。よく例に挙がるのが、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさん。彼女は親族の方が乳がんで亡くなられていることから遺伝子情報の解析を行い、乳がん・卵巣がんになる可能性がとても高いと診断されたとのことで、健康な乳房と卵巣を切除するという選択をとられました。このように、遺伝子解析を行って疾患リスクを知ることで、彼女のような決断を下す方が今後も出てくるのではないかと思っています。

 

——遺伝子解析のニーズには、どのようなものがあるとお考えですか?

一つ目はアンジェリーナ・ジョリーさんのように、親類にがんなどの病気を持つ方がいて、不安感があるから純粋に自分の遺伝子に変異がないかを調べたいというニーズがあります。もう一つは病気に対する不安はないけど、遺伝子というもの自体に興味があるから解析してほしいというニーズがあります。これは、トライアルで解析を始めたからこそわかったことで、とても驚きでした。

 

——実際にゲノムクリニックで遺伝子検査を受けるとなると、どのような流れになるのでしょう?

現在は「千葉大学ベンチャービジネスラボラトリー研究プロジェク」として研究としてのみの解析を行っています。実際に一般の方に開始する際には多くの検討を重ねたうえで、次のような流れを考えています。まずゲノム解析を希望する方にはカウンセリングから始めて、検査によってわかること、わからないことを説明します。よく、遺伝子検査というものを十分に理解していない方がいますが、その状態で検査をするとトラブルにつながる可能性があると思っています。というのも、次世代シーケンサーを使って遺伝子情報から疾患リスクが判明した場合、高いものだと7, 8割という確率で実際に病気になるものもあります。そのように高確率で、遺伝的要因の強い病気のリスクが判明すると、母方から来たものなのか、父方から来たものなのかと、連鎖的に家族の病気がわかってしまいます。その他にも、子どもにも遺伝している可能性が分かる場合があります。それほど遺伝子情報というものはセンシティブなものなので、軽い気持ちで行うものではないと思っています。そのようなことを全て理解していただけたら、ご本人の検査は簡単です。唾液か血液を採取して、そこからDNAを取り出し、さらにその中の3%ほどである遺伝子を濃縮します。その濃縮した遺伝子を次世代シーケンサーにかけ、さまざまなデータベースから意味付けを行って、調べたい遺伝子が病気となる可能性があるかどうかを判定するという手順になります。将来的にはAIの活用も視野に入れています。

 

——次世代シーケンサーを使った一般的な遺伝子解析と比べた時に、ゲノムクリニックの遺伝子解析はどのようなところが強みになるのでしょうか?

遺伝子検査の結果の意味付けを医師の監修のもとで行うことが、私たちゲノムクリニックの強みになります。例えていうなら、CTスキャンというものがありますよね。あれを次世代シーケンサーだと思ってもらえるとわかりやすいかと思います。CTスキャンで人の体を撮影しただけでは、体が輪切りになった画像が出てくるだけですが、実はあの画像を読む読影医という専門の医師がいて。彼らが画像を診断してレポートを書いて、担当医に結果を渡しているという現状があります。僕は、その読影医のゲノム版をしたいと考えています。

 

——ゲノムクリニックの遺伝子解析は、現在一般の方は受けることができるのでしょうか?

今はまだ研究プロジェクトの段階なので、一般の方の遺伝子解析は受け付けておらず、トライアル版というかたちでご協力いただける数名の方のみに受けてもらっているところです。というのも、次世代シーケンサー解析は数年前からようやく医療レベルで実用化してきた技術で、まだまだ完成されてはいないからです。また、社会的・法的な観点からも早急な実装化には慎重であるべき事情があります。むしろ、こちらの方がハードルとしては大きいかもしれませんね。アメリカでは2007年に遺伝子差別禁止法という法律ができたくらいですが、日本では一切そういった法律がありません。これに関しては国内でも様々なご意見があり、専門家・一般の方々を巻き込んだ議論が必要な状態です。ただ、日本もいずれはゲノム解析が一般的になる時代が来るだろうし、医師の立場から見て、救える命があるなら絶対にやるべきだと思っています。

 

——遺伝子解析を一般に向けて提供できるようになった場合、費用はどのくらいを想定していますか?

一般向けに検査を行うことができるようになれば、19万8千円で提供したいと思っているところで、いずれは10万円前後に抑えたいとも考えています。今、日本のベンチャーでも新しいシーケンサーを開発しようと頑張っているところがあります。そうして全く新しいシーケンサーができたとしたら、1、2万円で遺伝子解析を行うことができる時代も来るかもしれません。

 

——今現在、トライアル版の遺伝子解析を受けている方の事例を教えてください。

トライアル版の遺伝子解析を受けた方の中には、私の妻もいます。今は完治していますが、実は妻のお母さんはがんになったことがあり、不安を抱えていました。そこで解析を行ってみたところ、幸いなことに現在知られている病原性のある遺伝子の変異は見つからず、「ほっとした。解析してもらってよかった」と言っていました。妻は心理学の専門家でもあるので、解析を受ける時の人の心理面におけるアドバイスもしてくれたり、「これは意義のあることだからやるべきだよ」という風に後押ししてくれていて、とても心強い存在です。

 

——ゲノムクリニックの今後の展望を教えてください。

遺伝子解析を医療としてきちんと実装するために、技術的に足りない部分がまだいくつかあります。なので、まずはそこを改善していきたいと思っています。9割方は完成しているといってもいいのですが、ゲノムクリニックとしてはさらに精度を高めていき、医療として完璧なものを提供できるようになりたいと思っています。そして、遺伝子解析の一般化に向けて社会的・法的な部分のハードルを越えるために、専門家の方たちと協力して社会実装化のための研究にも取り組んでいきたいですね。

 

——PAAKに応募したきっかけを教えてください。

千葉大学はまだまだベンチャービジネスが盛んではないところなので、PAAKのようにベンチャービジネスを志している人たちや起業して頑張っている人たちと出会いたいと常々考えていました。実は以前の所長である麻生さんとは中学・高校の同級生だったのですが、彼の考えに共感できたことも応募したきっかけの一つです。実際に会員になってみると、医療系のベンチャービジネスをされている方も多く、いろいろとアドバイスをもらえたことが良かったですし、そういった方たちが周りにいることで、自分自身のモチベーションも上がりました。

 

——最後に、PAAKへ応募しようと考えている方へメッセージをお願いします。

研究を社会に役立てるということを、日本はもっと取り組んでいくべきだと僕は思っています。そのためにはまだまだ課題もあるかと思いますが、何か新しいことを研究されていて、それを世の中に役立てたいと思っている方にとってPAAKはとてもふさわしい場所ではないでしょうか。研究を通じて社会をより良くしたいと思っている方はぜひPAAKに応募して、ここから世の中へと羽ばたいていってほしいなと思います。

他の記事も読む