障がいや難病を抱える当事者とその家族に、笑顔と希望を。

『イースマイリー』矢澤 修さん(株式会社イースマイリー)

——矢澤さんのこれまでの経歴を教えてください。

子どもが好きで、もともと福祉や教育といった分野に興味があり、大学では社会福祉を学んでいました。一般的にはその後、社会福祉士の国家資格を取って福祉に関わる仕事に就く人が多いと思います。でも、そのまま福祉の業界に入ってしまうと、業界にどっぷり浸かって視野が狭くなるのではと思いました。今後、福祉の仕事はさらに重要になってくることは確かではあるものの、その業界全体を底上げするためには、他の成長産業と組み合わせてイノベーションを起こすべきだと思ったんです。

僕が大学を卒業する当時、一番成長している分野といえばやはりインターネット。IT企業で早いうちからいろいろな経験をして、事業を大きくする過程を見たいと思い、新卒でヤフーに入社しました。ヤフーでは、主にマーケティングリサーチの仕事を2年半ほどしました。その次に入社したのは、当時まだ未上場だったベンチャー企業のVOYAGE GROUPEです。7年半ほど在籍していたんですが、全部で5事業8サービスの事業開発に携わり、自分が立ち上げた子会社であるソーシャランドの代表も務めました。そうして社会人として10年ほど経った頃、前々から自分のやりたいと思っていた子育てや福祉に関する事業をやろうと決めて、2016年の3月に株式会社イースマイリーを設立しました。

 

——矢澤さんが立ち上げられた事業の中には、どんなものがあるのかその一部を教えてください。

ちょっと変わったところでいうと、インドネシア人向けの出会い系サイトをつくったことがあります。この事業については、共著で本も出しました。後は、地方に住んでいる人はファッション雑誌に載っているような服をなかなか地元で買えないと思うので、代わりに渋谷近辺の大学生がお店に服を買いに行って発送するというサービスもつくりましたね。それから、訪日外国人向けに日本の文化やお土産を紹介する動画サービスも。先ほどお話しした、ソーシャランドという会社はBtoBの事業を行う会社で、当時流行り始めていたソーシャルメディアを活用したマーケティング支援をしていました。BtoBからBtoCまで、本当に幅広い事業やサービスに携わってきたと思います。

 

——『イースマイリー』というサービスを開発するまでの経緯を教えてください。

もともと保育園をつくることが夢だったくらいに子どもが好きだったので、会社を立ち上げた当初は、教育要素を含む子ども向けの動画『Kids Tube』をつくっていました。今もこのサービスは継続していて、動画コンテンツの数は全部で1,500本ほど。このサービスを始めた時、実はPAAKに5期生としてお世話になっていました。

その後、2017年の始め頃にリクルートさんが開催した「MEET SPAAC」というイベントに参加したことが、事業内容を今のものに転換するきっかけになりました。リクルートの社員の方と事業アイデアについて話し合ううちに、「自分がやりたいことは、本当は何だったっけ」というところに立ち返る機会があったんです。それで、今の『イースマイリー』のサービスのもととなるアイデアを思いつきました。

 

——『イースマイリー』のアイデアに至るきっかけは、何だったのでしょうか?

僕は4人兄妹の上から2番目なんですが、1番上の兄と1番下の妹は筋ジストロフィーという難病を抱えて生まれてきました。二人は小さい頃から車椅子生活をしていたこともあって、僕は子どもの頃から障がいや難病というものが身近にある環境で育ってきました。当時インターネットなんてものはなかったので、自分たちが手に入れられる病気や病気を持つ子どもの子育てに関する情報はほとんどないし、世間からの見られ方というか、目線も今よりも鋭い感じはありましたね。そんな中で、親は必死に子育てをしてくれた記憶があります。

今、僕は会社の代表の他にも、あるNPOの代表も務めています。このNPOでは障がいを抱えている子、健常者の子、全部で80人ほどのお子さんを預かり、親もとから離れて4泊5日でキャンプ場に行くという取り組みを行っているんですが、もともと僕も子どもの頃に、兄妹と一緒に参加していたんです。それで大学生の時にボランティアのリーダーになって、社会人何年目かで運営しているNPOの理事になって、そんな風に障がいや難病を抱える人たちとずっとふれあってきた人生を送ってきました。

インターネットの時代になった今、世の中は相当便利になったけど、障がいや難病を抱える当事者やそのご家族は便利になった恩恵を受けていないなと思ったんです。病気のことをインターネットで検索すれば、本当か嘘かわからない情報が散乱している。障がいや難病を抱える当事者や、そのご家族のためにできることはないだろうかと考えたことが、今の『イースマイリー』のサービスのアイデアにつながっています。

 

——改めて、『イースマイリー』がどのようなサービスなのかを教えてください。

『イースマイリー』は、障がいや難病を抱える当事者であるお子さんと、その家族のためのオンラインコミュニティーサービスです。インターネットでもリアルな世の中でも、障がいや病気に関する正確な情報がまとまっていなくて、当事者や家族の方は情報の取得に苦労されている現状があります。インターネットで具体的な疾患名を検索すれば、誹謗中傷が溢れている。当事者に話を聞くと、「インターネットには希望がないから、そもそも見ない」という方もいらっしゃるくらい。それならばリアルな場ではどうかというと、都心では患者数も多く、当事者やご家族が集まるコミュニティーの場も一部では設けられていて、当事者やご家族の不安も少ない。一方で地方は患者数も少なく、コミュニティーの場はあったとしても実質的に機能していない場合もあり、不安を抱えている方が多くいらっしゃいました。まだサイト自体はオープンしていないんですが、『イースマイリー』は、そのような根深い問題を解決するためのサービスにしようと考えています。

最初はQ&A方式のサイトにしようとも思ったんですが、そもそも障がいを持つお子さんや難病のお子さんを抱えるご家族は、何を質問すれば良いのかがまずわからない。慣れている人なんていないから、当たり前ですよね。当事者のお子さんや家族にとって、先が見えないことが一番の課題なんです。なので、まずは未来へのレールを少しずつ見せてあげるというサービスにしようと決めました。具体的には、病院の先生や支援するNPOの団体、患者会や当事者家族の先輩方といった人たちから、正しい情報だけを集めてきて、それを『イースマイリー』のサイト上で整理して見せてあげるというものになる予定です。

 

——具体的にはサイト上で、どのような情報の見せ方をするのでしょうか?

ただ単に情報を羅列するだけでは、情報の意味がありません。『イースマイリー』は、お子さんの成長過程や疾患の進行度、重度別に情報をまとめていくので、当事者や家族はそのお子さんに添った情報だけを見ることができます。例えば、当事者のお子さんが来年小学校に上がる年齢で、車椅子に乗っているとします。そのご家族に、小学校に上がる前にするべき準備についてや、就学時に申請できる補助金などの情報を提示してあげることで、当人たちが気づかなかったことをまずは気づかせてあげて、わからないことをなくすというサービスにしたいと思います。

『イースマイリー』では、さらにその情報にプラスしてコメントを残したり、追加で質問をしたりできるサービスにしていこうと思っています。イメージしているのは、経済ニュースに対していろいろな人がコメントを残せるサービス『NewsPicks』です。『NewsPicks』は、ニュースの本文と有識者のコメントをセットで見ることで、価値が生まれますよね。それと同じことを、僕は『イースマイリー』で実現したいと思っています。

また、障がいや難病と言っても、例えば自閉症の方と、筋疾患を持っていて体が思うように動かない方とでは、当事者とその家族の悩みは大きく異なります。さらに知的障がいがあるのかないのかでも、また違ってくる。解決する術も違えば、かかりつけのお医者さんも違うので、特定の疾患ごとにコミュニティーを分けようと考えています。最初に手をつけようと思っているのは、僕の兄妹が抱えていた難病の筋ジストロフィーです。

 

——過去には、『イースマイリー』のようなサービスは他にあったのでしょうか?

これまでにも、NPOや社団法人による取り組みの一つとして、Q&Aサイトはあったと思います。ただ、従来のそういったサービスには、ITビジネスに強い人が携わってこなかった。だから、この時代になっても障がいや難病を抱える人たちのための確固たるコミュニティーができなかったんだと思います。それから、お金になりにくいという意見も一理あると思います。ただ単に真っ当にやってしまったら、社会貢献やボランティアで終わってしまう分野だと思うので。

そんな中で僕は、IT業界で10年間やってきて、いろいろな事業を立ち上げてきたノウハウがあります。子どもの頃の原体験への思いも、あります。そんな僕だからこそ、上手くビジネスとしてやっていけるのではないかと、思っているところです。この事業をきちんと収益化していって、サービス自体も大きくしていく。雇用も生むし、助けられる人も増えるというサービスに成長させて、この業界の第一人者になっていきたいですね。『イースマイリー』は、僕の原体験から生まれたサービス。これをやるために生まれてきたのではないかと思うくらいで、僕が生きる上での使命だと思っています。

 

——『イースマイリー』のサービスに関する直近の動きについて、教えてください。

今年の2月にクラウドファンディングを開始して、3月末に募集を締め切ったんですが、300万円という目標額を大きく超え、430万円集めることができました。支援してくださった方は、377人。本当にたくさんの方に応援していただき、感謝しています。また、今回のクラウドファンディングを通じて、一緒に事業をつくっていく仲間も得ることができました。支援金を払いつつ、つくり手として参加してくれる人に向けたパックも用意をしていたのですが、なんと56人もの方が手を挙げてくれて。こうしてクラウドファンディングで得た資金と、仲間と一緒に、今はリリースに向けて準備している段階です。β版のサイトを、6月くらいにはオープンできればと考えています。

——『イースマイリー』の今後のビジョンを教えてください。

もともとは、「子育てでみんなと”えがお”をつくる」会社という意味で『イースマイリー』という社名でスタートしましたが、最終的なビジョンは同じなので、今回のサービス名も『イースマイリー』にしました。このサービスができることで世の中から悩みをなくして、笑顔をたくさんつくっていきたい。先ほど、難病を抱える当事者の方の言葉で「インターネットには希望がない」という声を紹介しましたが、僕は最終的に希望だらけの世界をつくりたいんです。障がいや難病は根治することが難しく、基本的には治すというよりも、今より悪くならないように現状を維持するというのが、多く見られる考え方なんですね。でも、『イースマイリー』を介していろいろな情報が集まってくることで、例えば、海外で5年後に新しい遺伝子治療の治験が始まるという情報が入ってきたとします。その情報を知って過ごす5年と、知らないで過ごす5年とでは、全く違ってきますよね。そんな風に、5年後には明るい未来が待っている、という希望で溢れる状況をたくさんつくっていけたらと思っています。

 

——最後に、PAAKについてお聞きします。5期生、11期生と合計で1年間在籍されていましたが、その感想を教えてください。

創業してから2年、イースマイリーは固定のオフィスを持っていないので、その都度さまざまなワーキングスペースを転々としてきました。その中でもPAAKは特に優れていると思っていて、何が良いかというと、中の人が素晴らしいんですよね。所長やコミュニティーマネージャーの方、運営スタッフの方がいるおかげで、PAAKはコミュニティーの場として存在し続けているんだと思います。箱だけ用意しても、こうはならない。みんな応援してくれているのが体感としてわかるから、たくさん勇気づけられました。PAAKは、僕にとって帰ってこられる場所というか、自分の居場所のようなところですね。

他の記事も読む