デジタル時代の2世帯住宅を作りたい ── 梶原健司さんインタビュー

梶原健司さん
株式会社チカク

震災とジョブズの死が転機のきっかけに

まず、梶原健司さんの経歴を教えていただけますか?

実家が兵庫県の淡路島で、大学入学を期に東京に出てきました。1999年に、新卒でアップルの日本法人に入社しています。そこから12年、おもにマーケティング、セールス、新規事業開発をやっていました。2011年にアップルを退職して、2014年に今の会社を立ち上げています。

アップルを退社して会社を設立されるまでの期間は、どうされていましたか?

やめた理由はいろいろあったのですが、東日本大震災があって、いつ死ぬか分からないというのをみなさん体感したと思います。残りの人生を考えたときに、自分がやりたいことは何だろうと考えました。それと外資系で12年間は、結構長い方です。日本法人の中では、やれることはやったなという思いがあったので、次を考えていました。スティーブ・ジョブズに憧れていたのですが、ちょうど彼が亡くなったタイミングでもあったのでリセットしようと思いました。

アップルのときの同僚が会社を立ち上げていたので、そこのお手伝いをさせて頂きながら、自分で次に何をしようか? と模索していました。前職との繋がりを考え、最初は気負っていました。周りの目を気にして、イノベーティブでクールな事業じゃないとカッコつかないと、勝手に思い込んでいたんです。しかし、1年ぐらい模索していても、何も思いつかなかったんです。ふと周りを見ても、自分が何をするかは誰も気にしてませんでした。自意識過剰にもほどがあるなと、1~2年いろいろやっているうちに気づきました。そこで、自分が個人として解決したい課題を考えていたときに、今の事業のアイデアにたどり着いたんです。そこで会社を設立した感じです。

震災が大きな影響を与えたのでしょうか?

大きいですよね。当時アップルのオフィスは、東京オペラシティの51階にあったんです。免震構造になっているので、下の階よりも揺れる作りになっているのでそれはもう揺れたんですね。本当にその時に、このままビルが折れて死ぬのかな・・・と思いました。東京に出てきた後ですが、阪神大震災で淡路島にいる家族が被災していましたし、自分が当たり前だと思っていたことが崩れていったという感覚が強かったですね。

離れて暮らす実家のテレビにまご専用のチャンネルを作りたい

ご自身のプロダクトについて教えていただけますか?

まごチャンネル』というサービスをやっています。離れて暮らす実家のテレビに、まご専用のチャンネルができるというコンセプトの製品です。具体的には、スマホのアプリと、テレビにスマホの画像と動画を映せるハードウェアを作っています。スマホで撮影した写真や動画を、すぐに実家のテレビに映すことができます。

特徴としては4つあります。1つ目はおじいちゃんやおばあちゃんなど、スマホを使いこなせないITリテラシーが低い方もいらっしゃいますので、できる限りシンプルにしてあります。設置に必要なのは、家型の端末をHDMIケーブルでテレビに繋いで、電源コードを挿すだけです。おじいちゃんやおばあちゃん側の手間は、基本的にはこれだけです。

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2つ目の特徴は、テレビのリモコンで操作ができるので、「8チャンみようかな? 6チャンみようかな? まご見ようかな?」という気軽さでご利用いただけるということで、『まごチャンネル』というサービス名にしました(笑)。

3つ目の特徴は、おじいちゃんやおばあちゃんが『まごチャンネル』を見始めると「見始めました」という通知が送り手側のスマホに届きます。見ているかどうかがわかるので、送り甲斐があります。

撮影したものを送信してから、どれぐらいで届きますか?

早ければ数秒から数分で届きますね。もちろん通信環境によるのでもっと時間が掛かる場合もあります。そして写真や動画が届くと、本体の窓に明かりがつきます。ここに子供たちが帰ってきたので、家に明かりがついたみたいなイメージです。そして、その中の生活がテレビで見られるといった感じですね。

4つ目の特徴は、おじいちゃんやおばあちゃんの家には無線LANなどの通信環境が無い場合があるため、本体の中に携帯電話と同じようにSIMが入れてあり通信を行い自動的にインターネットに繋いでいます。

パッケージもアップル製品のようにシンプルな作りですね。

はい。マニュアルもわかりやすく作ってあります。実は今、弊社サイトでご購入いただいた場合は、お孫さんの名前を購入時に聞いています。それを、パッケージに「まごチャンネル」ではなくて「けんじチャンネル」のように印刷して出荷しています。「まご」は一般名詞なので、実際のお孫さんの名前にしているのが喜ばれていますね。伊勢丹の新宿本店と日本橋三越本店・銀座三越でも同様に販売と名入れをしています。また、全日空のマイルの交換の対象にもなりました。そうやって少しずつ販路を広げていっています。

1台の販売価格はおいくらぐらいですか?

端末が2万4,800円。通信料が月額1,250円をサービス料で頂いているのですが、それを1年分前払いで頂くというプランで、合計で3万9,800円です。

回線はどちらを使用されていますか?

ソラコムのSIMを使用していて、具体的にはドコモの回線になりますね。なので、屋内環境によりますが、ドコモがカバーしている地域ならば基本的に利用することができます。

反響はいかがですか?

昨年9月にMakuakeというクラウドファンディングで発表して、IoTというカテゴリーでは史上最速ですが、開始50分ほどで目標金額を達成することができました。最終的には300人ぐらいの方からご注文を頂いて、いい出だしを切ることができました。そこから量産を始めて、クラウドファンディングでの予約者への出荷が2016年の4月から5月ぐらいです。6月から一般での販売を始めて、今に至ります。

使って頂いている方は非常に満足されていて、我々としてはやって良かったなと。ここで終わるつもりはないですが(笑)。

PAAKは横の交流も考えられているところがありがたい

TECH LAB PAAKはどういう場所だと思いますか?

非常にお世話になっています。実はオフィスは恵比寿に別にあるんですね。ただ、ハードウェアをやっているので、色んな開発や在庫スペース、そして出荷もそこで行っていたりと、とてもじゃないですが人を呼べる環境ではありません。また、デザインワークなどほかの仕事をしなければいけないときに、そこでは難しいことがあります。そんなときに、作業に集中できる別の場所が欲しいという理由で応募しました。

非常にありがたいのは、ドリンクなどもフリーだし、モニターや会議室もあります。いわゆるコワーキングと呼ばれる基本的な機能はすべて揃っています。にも関わらずなんと無料なので、リクルートさん本当に大丈夫ですか? と思ってしまうぐらいです(笑)。

場所的にも渋谷のアップルストアの上にあるので、人に来て頂いて打ち合わせをするといったときにも、わかりやすいですね。会員の中に元々知り合いもいたのですが、イベントなどもしょっちゅう行われていて横の交流も考えられているところがありがたいです。

ネットの力で時間や距離を越えることができる!

今後どんなイノベーションを起こしていきたいですか?

究極的には、デジタル時代の2世帯住宅を作りたいと思っています。同居はときとして息が詰まりますが(笑)、隣に暮らしているぐらいの距離感をテクノロジーを使って実現できないか? と思っていました。『まごチャンネル』は、その第1歩だととらえています。そういう意味では、まだ隣に暮らしているという感じにはなっていないので、そこに向けて進化していきたいなと思っています。

日本はもう30年ぐらい核家族化が進んでいて、先進国もそうですが、それ自体は止めることができないと考えています。僕は田舎の出身で、おじいちゃん・おばあちゃんと親や兄弟と3世代で18歳まで暮らしていましたが、僕自身はそれが良かったんです。離れて暮らすことがみんな当たり前になってきましたが、インターネットの力を使えば時間や距離を越えることができます。

会社名はカタカナで「チカク」にしています。大切に思っている人どうしを、距離と時間を越えて「近く」したいというのと、「知覚」するというふたつの意味が込められています。まさにそうした世界観を実現していきたいと考えています。

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家族や大切な人を世代を越えて近くしていく

このプロダクトに興味を持っているエンドユーザーに対してメッセージはございますか?

こうした名もない会社がなんとかやっていけているのは、いろいろ支えてくれている方々のおかげです。ユーザーからの「応援しています!」といったポジティブなメッセージを、おじいちゃん・おばあちゃんからも頂いていますし、ママさんやパパさんからも頂いていて、すごくありがたいです。

家族と離れていて実家が遠い人は、みなさん喜んで頂けると思います。近い人は、直接まごと会えるのでダメだとは思いますが(笑)。

僕たちはここで立ち止まらず、常に改善をしながら家族や大切な人を世代を越えて近くしていくようにしています。実際に体験してもらえると、こういうことなんだ! というのが分かっていただけると思います。ご興味がある方は僕たちのウェブサイトでも購入できますので、ぜひお求め頂ければと思います。

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