情報探しをエンターテイメントにしたい ──『Smooz』加藤雄一さんインタビュー

加藤雄一さん
アスツール株式会社

ソニーでハードウェアの一番厳しい部分を学んだ

まず、加藤雄一さんの経歴を教えていただけますか?

新卒でソニーに入社しました。元々携わりたかったのはPDAの『CLIE』で、面接の時にはCLIEを使ったウェブサービスを提案しました。しかし、入社後はオーディオ事業の管理部門に配属され、『MDウォークマン』の生産管理を4年ほどやりました。

入社初年度は『MDウォークマン』は過去最高の売り上げだったのですが、『iPod』が普及するにつれてビジネスが厳しくなっていきました。自分は管理屋だったので、オーダーした材料のキャンセルに奔走したり、最後に余ってしまった部品在庫や完成品在庫を泣く泣く処分したりと、ハードウェアメーカーの一番厳しい部分を体感しました。

4年間管理業務に携わって思ったのは、「商品が売れなければいくら効率化しても会社は成長しない」ということです。管理の仕事に楽しさは感じていましたが、もう一度ソニーの門をくぐった時の初心に戻って、プロダクトを作りたいと思いました。ソニー・エリクソン(現: ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社)で携帯電話の商品企画をやりたいと考え、人づてを辿って話を聞いたのち、社内募集制度を利用して異動しました。上司に内緒で応募したので、こっぴどく怒られてしまいました(笑)。

その頃はまだフィーチャーフォン(ガラケー)全盛の時代でしたが、僕が興味を持っていたのは、手のひらに全ての情報を載せることができるスマートフォンの世界でした。そしてそれはまさに『CLIE』が目指していた世界でもあります。実は、ソニー・エリクソンは当時すでに、シンビアンというOSをベースにスマートフォンを作っていて、海外市場で1千万台近くを販売していました。僕はスマホをやりたいと思って異動したのですが、会社的にはフィーチャーフォンが依然主流だったので、なんでスマートフォンなんてやりたいの? と、結構物好きなヤツ的な立ち位置でした。ずっとスマートフォンのことを言っていたら、本社にいってやりなさいと言われ、スウェーデンに赴任することになりました。

スウェーデンでは、全社の商品ポートフォリオ戦略、グローバル向けスマートフォンの商品企画など様々な仕事をさせてもらいましたが、一番自分のキャリアに影響を与えたのは、スウェーデン2年目で携わった「次世代携帯電話の提案」の仕事でした。コンセプトの内容については詳しくは語れないのですが、デザイナー・エンジニア・プロダクトマネージャー(自分)が三位一体となってゼロからコンセプトを着想し、試作し、新規事業を立ち上げていくプロセスで、はじめて仕事で心が躍動するのを感じました。

しかし、この年から会社の業績が芳しくなく、この新規事業は残念ながら取りやめになってしまいました。心から信じていた商品を世の中に出すことができず、しばらくは非常に落ち込みました。しばらくしてから『イノベーションのジレンマ』という本を読んで、大企業で新規事業を立ち上げることに苦労しているのは自分だけでは無いと分かり少し気分が楽になりました(笑)。

この頃から、全く新しい価値を世の中に提案したいならば、大きな会社にその運命を委ねるよりも、自らの力でサービスを興して運命をコントールしたいなと考えるようになりました。スウェーデンでの週末は暇を持て余していたので、プログラミングの勉強を少しずつはじめ、それが起業に繋がる第一歩となりました。コードを書きつつ、ウェブのビジネス面も学びたいと考え、日本に帰国後、楽天に転職しました。

楽天では、新サービスの立ち上げをしたり、『Viber』のプロダクトマネジメントを担当し、三木谷さんや『Viber』創業者のタルモンさんの近くで仕事をさせてもらう機会がありました。彼らは、とにかく成功するまでやりきる執念が飛び抜けています。本当に24時間365日、自分のサービスのことを考えています。

でも、逆に言うと特別な超能力を持っているわけでない普通の人間です。横に居る人が、こんなにスゴイサービスを作って、いまここに座っている。ひょっとしたら自分もできるのではないか? そんな気持ちがむくむくと湧き上がってきて、独立を決意しました。

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独立されたのはいつですか?

楽天を退社したのは2015年の3月です。誰と何をやるかも全く決めないまま退社しました。会社を設立したのは、1年後の2016年3月です。その間の1年間は、仲間を集めたいと思っていたのと、何をやるのか決めないまま会社を作るのもピンとこなかったので、フリーの立場で、良さそうなアイディアの試作などをしながら過ごしていました。

最初はニュースアプリのようなものを3~4カ月かけて作っていたんですが、実際に使ってみてもあまりピンと来ずやめることにしました。やめると仲間も離れ、自分1人だけになりました。そこで1回クールダウンし、もう1度作り直して今に至ります。

ウェブコンテンツはダイナミックに繋がることによって価値が生まれる

ご自身のプロダクトについて教えていただけますか?

今のスマホのブラウジングは、起動して検索してサイトを見て終わりという情報の自動販売機のような体験です。でも、ウェブってもっと楽しいものだと思うんです。ウェブでは無数のコンテンツがダイナミックに繋がっていて、その繋がりによって新しい価値が生まれます。情報の取得に貪欲で、1度調べ物を始めると1時間ぐらい調べ続けてしまうような人のためのソリューションを作りたいと考え、『Smooz』の開発をはじめました。

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特徴は3つあって、1つ目はUIです。タブ操作は興味を広げさせる良い装置だと思っています。○○も見たい○○も見たいという感じで、検索結果をタップで追加するだけでどんどんタブが開いていきます。そしてスワイプ操作だけで、簡単にタブを切り替えることができます。違うなと思ったときは、タップでタブを閉じることもできます。これにより、検索から広がる興味が四方八方に分散していくのを狙っています。

2つ目の特徴は、検索文字の予測です。今見ているウェブサイトに付随した情報を調べたくなることってよくありませんか? パソコンならばパッパッ検索文字を新たに打って次の検索をするところですが、スマホでの文字入力は非常にコストが高いので、興味はちょっとあるけど手が止まってしまう。この問題を解決するために、読んでいるウェブページを自然文解析し、次に検索したいキーワードをアプリから提案するということをやっています。

3つめの特徴は、ソーシャルメディアとの融合です。今のウェブコンテンツが流通するかどうかは、一昔前ならGoogle検索だけに依存していました。しかし、今はFacebookやTwitterでどう波及するかが大きく影響します。ウェブとソーシャルはすごく密接な関係を持っているので、そこを繋げたいと思いました。

僕は見ているウェブページに、周りの人がどれぐらい興味を持っているんだろう? とか、どういう反応をしているんだろう? というのが、いつも気になっています。これまでは、URLをコピーしてTwitterで検索をしていました。『Smooz』では、TwitterとはてなブックマークのAPIを、毎回リアルタイムで叩いていてそのページの反応が見られるようにしています。ブックマークはソーシャルブックマークになっていて、人との共有を兼ねています。コメントなどを付けてブックマークをすると、非公開にしない限り他の人からも見ることができます。

今はiOS版だけですか?

はい。2017年の年明けぐらいからAndroid版の開発も進めていきたいと思っています。2つ同時にベンチャーで作るとリソースが分散してしまいますので、まずiOS版でがっちり刺さるプロダクトを作り、それからAndroidへの展開に着手するというステップで考えています。

リリース後の反響はいかがですが?

TechCrunch』さんに取り上げてもらったり、App Storeのトップに表示されたりしてラッキーでした。しかし今フォーカスしているのは、ダウンロード数よりも1人のユーザーにいかに熱量高く使ってもらえるか? というところです。それがやっと良い感じに伸びてきました。1日にユーザーが何ページ見ているか? というのを大事な指標にしていますが、2016年10月末の時点では40ページほどでした。それが今は100ページ近くなっています。プロダクトとしての「粘着力」が出来てきたかな、 という手応えはあります。

PAAKは素晴らしいオアシスのようなところ

TECH LAB PAAKはどういう場所だと思いますか

渋谷の一等地の場所、美味しいお菓子や飲み物など全て無料で、最初は何か裏があるんじゃないかと思ってました(笑)。
でも本当に何も見返りを求められず、半年間ありがたく利用させて頂きました。

そして、面白いテクノロジーの取り組みをしている人が沢山集まっているという部分もPAAKのいいところですね。それどうやって儲けるんだろう? と思わず呟いてしまいそうなプロジェクトも沢山あって、マネタイズやら資金調達やらビジネス寄りのことばかりを考えているときには、気分がリセットされて元気をもらってました。

物質的にも、精神的にも、そこにいくとホッと一息付けるという意味において、PAAKはオアシスのような場所でした。

検索を使わずコンテンツ同士を直接結び付けていきたい

今後どんなイノベーションを起こしていきたいですか?

当面は『Smooz』にフォーカスしていきたいです。ユーザーさんからも沢山宿題もらっていてやりたいことが山ほどあります。

現在のブラウジングは、目次→コンテンツ→目次→コンテンツという形でコンテンツを探しますが、将来的にはコンテンツとコンテンツを直接結びつけることによって、もっと「スムーズに」ブラウジングが楽しめるはず、というビジョンを持っています。

熱量の高い知的好奇心を持った人に使ってもらいたい

このプロダクトに興味を持っているエンドユーザーに対してメッセージはございますか?

何かを突き詰めて気が済むまで調べていくプロセスって異常に楽しいですよね。映画やアニメを見るのも楽しいけれど、そういった消費型のエンターテイメントと比較して、自分の知りたいことを調べていく行為は、もっと自分の人生全体に影響を与えるような、「深い楽しみ」を与えてくれる体験だと思います。

私たちは、こうした人間の「知的好奇心」を倍増させることによって、検索をエンターテイメントにしていくようなツールを作っていきたいと考えています。

ネットで調べ物をするのって楽しいなと思ったことのある人には、ぜひ1回アプリを使ってみて頂きたいです。

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