AIが胃がんをほぼ100%発見、世界初の技術を世界中の医療現場へ。

——多田さんのこれまでの経歴を教えてください。

大学を卒業後、大腸の外科手術を行う大腸外科医を5年ほどやっていました。その後、大腸内視鏡科に移り、12年前に武蔵浦和に自分のクリニックを開院しました。なので、内視鏡医師としてはこれまでに20年以上の経験があります。私が内視鏡専門の分野に進んだ当時、まだ内視鏡というものは新しく出てきた技術で、検査によって大腸に穴が空いてしまい、検査を受けた患者さんが亡くなる事故がしばしば起こっていた時代。そんな内視鏡という、まだまだ改良の余地がある分野でチャレンジしたいと思ったことが、内視鏡医師になるきっかけでした。そうして昨年の9月に、『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』の開発を行うAIメディカルサービスという会社を立ち上げました。現在も会社の代表を務めながら週に4日はクリニックの外来を、週に2日は内視鏡検査を行っています。

 

——『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』とは、どのようプロダクトなのでしょうか?

人工知能による画像認識能力は、今や人間を超える時代です。『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』とは、その人工知能を活用して内視鏡検査の際の医師の診断をサポートするソフトです。具体的にできることを説明すると、食道、胃、大腸のがんがどこにあるかを見つけることができ、胃がんに至ってはほぼ100%発見することができます。これは静止画だけではなく、内視鏡検査を行っている最中にリアルタイムで使うこともできるので、全世界の医療現場で活用してもらえるソフトだといえます。先日、胃がんの発見に関する私たちの論文が世界初であることが正式に認められ、海外の医療雑誌に近々掲載されることも決定しました。

 

——『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』を開発するきっかけは何だったのでしょうか?

健康診断での胃の検査方法は、以前まではバリウムが一般的でしたが、6年くらい前から胃カメラに切り替わり始めました。それによって、これまでは画像を8枚くらいしか撮ることができなかったのが、胃カメラに切り替わることで一人あたり4、50枚に増えたのです。それを医師が一枚ずつチェックすることに、私自身とても負担を感じていました。週に一度くらいは、通常のクリニックの業務を終えてダブルチェックの作業を行っていたのですが、一回につき3,000枚ほどチェックしなければいけなかったのです。そんな時に、人工知能を活用すればダブルチェックの作業を代替できるという話を耳に挟んで、それなら自分で開発を始めてみようと思い立ちました。

 

——これまでの一般的な内視鏡検査に比べて、このソフトを導入することでどのような点が改善されるのでしょう?

今までの内視鏡検査は、検査をする医師の判断が全てでした。検査があまり得意ではない医師や経験の浅い医師が検査を行う場合、がんを見落としてしまうことがあり、せっかく検査を行ったのに病気が進行して手遅れになってしまうという事例が多くありました。実際に、専門医の場合は8割ほどの割合で見つけることができますが、若い医師や研修医の場合には半分くらいの割合でがんを見落としているとの結果も。でも、この『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』を導入すれば、医師と一緒に人工知能ががん発見をサポートしてくれるので、見逃しのリスクがほぼゼロになると考えています。時間に関しても人工知能は1秒間に3、40回という超高速で診断を行うため、これまでとは比べものにならないほどのレベルの内視鏡検査が実現するといえます。

 

——このソフトを導入することで、医師にとってのメリットもあるのでしょうか?

健康診断で内視鏡検査を行った場合、毎回医師によるダブルチェックが行われます。先ほどもお話ししたように、胃カメラの検査を行った時に撮影する画像は一人につき4、50枚。それを医師が一枚ずつ再度診断を行い、検査結果として最終的な診断を下しています。例えば浦和医師会の場合だと、年間6万件ほど胃カメラの検査を行っているので、ダブルチェックを行う画像の枚数は、全部で200万枚から300万枚。それを70人ほどの医師が、一年という時間をかけてダブルチェックを行っている現状があります。これを人工知能が代替すると、だいたい2時間半ほどの時間で終えることができると考えています。これは、今までとは比べものにならないほどの時間と労力を削減することになります。内視鏡検査中にリアルタイムで診断できるので、全ての医療現場にソフトを導入することができれば、そもそもダブルチェックの必要性がなくなる時代も、将来的にはやってくると思っています。

 

——メディアでは最近、人工知能を医療に活用する動きを多く目にするようになりました。AIメディカルサービスの研究は、それらとはどのように異なるとお考えですか?

実際のところ情報を公開していない起業や団体が多く、はっきりとはわからないのが現状ですが、日本の大手の医療機器メーカーも人工知能を活用した医療機器を開発していることでしょう。ただ、話に聞くところによるとハードメーカーの場合、中身の内視鏡画像データが集まりにくいようです。弊社の『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』では胃がんの原因となるピロリ菌の診断もできるのですが、ピロリ菌の内視鏡画像データの所有数にも、ある大手医療機器メーカーと弊社では、かなりの差がありました。弊社の所有する学習データは、国内のトップクラスの医療施設の協力を得ることで、現在のところ全部で3、4万件ほど集まってきています。医療の現場にいる医師がチームにいることで、多くの画像データを集められること。これが、私たちの一つの強みであると思います。

 

——AIメディカルサービスの今後の展望を教えてください。

今はまだようやく論文が認められ始めた段階で、『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』はまだまだ研究レベルだと思っています。実際に医療の現場で使ってもらうために、まずは臨床現場での検証を今年の春頃からスタートしたいところです。そこで実際に医療の現場でも活用できるということが証明できれば、医療機器としてようやく認可が下りるので、その後は徐々に一般発売していけたらと思っています。そうして弊社の『内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト』が日本中、世界中の医療施設に導入されていけば、医療の世界はより良いものに変わっていくはずではないでしょうか。

 

——PAAKについてお聞きします。半年間の間、PAAKはどのように活用されましたか?

会員の期間がスタートした頃には今のオフィスに入っていたので、主に打ち合わせなどで利用していました。頻繁に行くことができなかったので、他の会員さんとたくさん交流できたわけではなかったですが、最初のオープニングパーティーがあったので、同期の会員さんと一通り知り合いになることができてありがたかったですね。

 

——最後に、これから起業しようとしている方やPAAKへ応募しようとしている方へ向けてメッセージをお願いします。

自分自身の困りごとや現場の困りごとを解決しようとすることが、起業やベンチャーにつながると、私は思っています。なので、困りごとを解決していこうという意気込みのベンチャーがこれからもっと誕生してくれると私自身嬉しいですね。ぜひ、そんなことを考えている方は頑張ってほしいと思います。スピードが速い世の中なので、最初に人工知能と内視鏡を組み合わせるというアイデアを私自身が考えた時、誰かがもう既にやっているのではと思いました。でも、調べてみると誰もやっていなかった。そういう意味では、何かと何かの組み合わせなら、まだ誰もやっていないことがこの世には無数にあるのだと思いました。そんな風に自分のやりたいことで何かと何かの組み合わせを見つけることができれば、私のように半年間や一年という短いスパンで胃がんについての世界初の結果を出すことができるチャンスが転がっています。ぜひ、みなさん一緒に頑

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